消費財・消費動向

サステナビリティへの関心によって変化する消費者行動と消費財・小売業界

2023年3月9日 | 発行元 Statista Japan
ガーデニングをする日本人の親子。
maroke via Getty Images
  • 欧州委員会は、包装廃棄物を2040年までに18年比で15%削減する規制と、大気中から炭素を取り除く技術に関する欧州連合全体の自主的な認証の枠組みを提案しました。環境保護団体からは、公正な相互監視がない場合には、炭素除去技術に関する提案はグリーンウォッシングに悪用される可能性があるとの指摘がなされました。 
  • KPMGの調査によると日本はサステナビリティ情報を報告する売上高上位100位の企業の比率は100%と世界首位でしたが、自社の活動が環境に与える正と負の双方の影響について言及する日本企業は4%(世界全体の比率は10%)にとどまり、プラス要素だけに言及するアピール先行の側面が目立っています。 
  • カナダの投資調査会社コーポレート・ナイツは、2023年の「世界で最もサステナブルな企業100社」を発表し、1位には米国のシュニッツァー・スチール・インダストリーズが選ばれました。日本企業からはコニカミノルタ、エーザイ、積水化学工業、リコーの4社がランクインしました。 

近年、消費財・小売業界は気候変動について従来にも増して関心を寄せ、その取り組みを強化しています。多くの企業の年次報告書には、排出量の削減、廃棄物の抑制、サプライチェーン全体へのより持続可能で適正な施策の導入など、明確な期限を定めた環境・社会・ガバナンス(Environment, Social, Governance, ESG)に関する公約が記載されています。しかし、気候変動に関する各企業の最新の報告書からは、その目標の達成は依然として長い道のりであることがうかがえます。今後消費財産業は、新たなトレンド、先端技術、事業モデルの広がりとそれに関連する投資の拡大により、サステナビリティの目標達成に向け着々と進歩していくと考えられます。 

サステナビリティに対する消費者の関心の高まり 

世界の消費者は時代の流れとともに気候変動により関心を持ち、環境に配慮した新しい習慣を身につけるようになりました。2022年時点で、1年前と比べてサステナビリティへの関心が高まった消費者の割合は中国で80%、米国で67%となっており、環境への配慮は消費者にとって重要な価値観になりつつあります。 

経済情勢が及ぼす影響 

社会や環境に配慮した商品の購入を望む人々にとって、物価上昇やインフレの影響は課題となっています。現在の物価高が原因でよりサステナブルな暮らしをするのが困難と回答したのは世界の消費者の約3分の2で、特にブラジルやインドなどの国々ではその傾向が顕著でした。 

一方、消費者は景気によって自らの行動理念を変えることは望んでおらず、安価な製品を購入するために、多様性や持続可能性などの小売業者や企業の倫理的な側面を犠牲にしてもよいと回答した消費者は約12%に過ぎませんでした。この割合は国によって多少異なりますが、全体的にみると、消費者は自分の主義主張を犠牲にするよりも、製品の品質や利便性、購入金額など購買体験全般において妥協するほうが好ましいと考えているようです。 

このインフォグラフィックは、持続可能な消費生活に関する消費者の積極度を示したものです。
より「サステナブルな旅」を求める消費者の割合 Source: statista.com

企業側の対応 

小売業と消費財企業は特に、既存の生産モデルが社会と環境に与えてきた影響を認識し始めています。Chanel(シャネル)、Adidas(アディダス)、Decathlon(デカトロン)、Tchibo(チボー)などの業界の中心的企業や関係各社は、国連の気候行動計画に取り組み、温暖化ガス排出量の削減とネットゼロの実現を公約に掲げています。 

2022年に行われた調査では、Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)、Dior(ディオール)、シャネルといったラグジュアリーファッションブランドとサステナビリティとの関連性を意識した富裕層は平均で4分の1以下に留まりました。今後ラグジュアリーブランドは、需要増が見込まれるブランド品の二次流通市場を介して、業界を循環型社会に適応させるための取り組みに一層注力すると見られています。 
 
 一方で、各業界の監視機関や消費者は、環境配慮をしたかのように見せかける「グリーンウォッシュ」を問題視しており、企業による透明性の高い情報開示を要請しています。欧州委員会が提案した炭素除去技術に関する認証の枠組みに対して、環境保護団体は、グリーンウォッシングを避けるための公正な相互監視を求めています。欧州委員会はまた、包装廃棄物を2040年までに2018年比で15%削減する規制を提案しました。 

カナダの投資調査会社コーポレート・ナイツがまとめた「世界で最もサステナブルな企業100社」に、日本からはコニカミノルタ、エーザイ、積水化学工業、リコーの4社がランクインしました。また、KPMGが行った調査によると、日本の売上高上位100社全社がサステナビリティに関する情報を報告していました。しかし、企業活動がもたらす正と負の両方の影響について言及したのは4%にとどまり、プラス要素だけをアピールする点が目立っています。 

幼い娘と植物の手入れをする日本人男性とそれを愛おしそうに眺める日本人女性。

循環型経済 

循環型経済とは経済的に持続可能でありながら、環境問題の解決策ともなる経済システムのことで、製品や材料が廃棄物になることなく、さまざまな方法で再利用されます。Statista(スタティスタ)の試算によると、2022年時点の循環型経済は家庭用電気製品分野で約934億米ドル、DIYと建材部門で約727億米ドル、アパレル部門で約613億米ドルの規模を有しており、今後も成長が期待されます。 

現在の小売・消費財業界の生産モデルでは化石由来の素材が広く使用されていますが、いずれは技術革新によって代替素材が登場すると予想されています。代替素材は生産規模の拡大が大きな課題とされますが、すでにアディダスやInditex(インディテックス)などのファッション企業が次世代素材の開発に着手しています。2004年から2020年にかけて欧州連合(EU)における循環型素材の使用率は着実に増加し、全素材の約8分の1に達しました。EUは2050年までに循環型経済の実現を目指しているため、使用率は今後さらに増幅すると見込まれています。


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