導入事例

【福島大学×Statista 後編】

2023-09-20 | 発行元 Statista Japan

ペインポイントはビジネスチャンス?データを味方に、福島大学の遠藤教授と考える日本のジェンダーギャップ

活用事例:福島大学様 校舎

世界の主要な業界、市場調査や消費者動向に関するデータや統計を提供する世界最大級のデータプラットフォーム「Statista」。連載「データの達人に会いに行く」では、様々な業界や職種でデータを扱うプロフェッショナルをお招きして、データとビジネスの関係を伺っています。

今回、国立大学としては初めてStatistaを導入いただきました、福島大学経済経営学類教授の遠藤明子先生の所へ訪問しました。後編では教育現場でのデータの活用と遠藤先生が今注目しているフェムテックの分野についてお届けます。

前編はこちらからご覧ください。

学生への質問紙調査から見るデータの見方

伊藤:
実際にオイテル(OiTr)の導入後に実施された質問紙調査というのは実際に誰を対象にどのように実施したのでしょうか?

遠藤:
質問紙調査は、全学類の1年生959名(男514名、女445名)を対象に今年の5-6月に実施しました。1年生には必修科目があり、その中で回答してもらえるためです(回収率:男性59.1%、女性64.9%)。性別に関わらず回答してもらう項目と、女性(性自認ではなく、月経のある方)のみ回答してもらう項目があります。

「機会があれば利用したいですか?」という質問には、女性の93%が「利用したい」と回答しています。「利用したくない」と答えたのは7%(人数にして20名)に留まりましたが、最も多い理由(複数選択可)が「自分に適した生理用品を使いたいから」で、利用したくない人の7割が選択しています。その他の理由を選んだのはいずれも3-5名で、「スマホの専用アプリを使う必要があるから」、「ナプキンを手に入れるまでに時間がかかるから」(電波状況により所要時間は30秒〜2分程度)、「設置されている場所に普段行かないから」、「使用を誰かに気づかれたくないから」です。「設置されている場所に行かないから」を選んだのは、設置してない学類の学生でした。また、「使用を誰かに気づかれたくないから」ですが、実際の提供時は音が一切鳴らないので、一度試してもらえればまず気づかれることはないとわかっていただけるはずです。

男性の自由回答で「良い取り組みだ」と回答している人が思いの外いましたね。オンデマンド授業だと回収率が低いなど質問紙調査を行う上での障壁はあります。しかし、思った以上に「できたら使いたい」という声が多く、男性も関心を持っていることに驚きました。

この調査では「『生理の貧困』の認知度と理解度」についても尋ねています。女性は「聞いたことがあり、どういうものかもわかる」が5割を超える一方、男性は「聞いたことない」と回答した方が約7割と、性差が強く出ています。男性の前で生理の話をしないのは今も一般的ですから、このような数字になるのは当然だと思います。逆に、男性が抱える生きづらさを女性が気づきにくいこともあります。

ただし男性に比べ女性は社会的に不利な立場に追いやられる状況が依然としてあり、男女で大きく非対称だということに注意が必要です。ジェンダーギャップ指数などで示されるように、政治・経済分野でリーダーが極めて少ない、大学進学率が低い、平均・中央値ともに所得水準が低い、ケアワークを引き受けることが当然視されがち、自己主張をすると気が強いとネガティブに評されやすい、など、様々なことに及びます。

さらにジェンダーギャップに関して言うと、「生理で学習が妨げられたことがありますか(学校を休む、遅刻するなど)」という質問に対して「よくある・ときどきある」と回答した方が約15%に及び、女性の大多数ではないものの、決して珍しくはないです。急に生理がきて、あたふたして授業に出られなかったと言うのは、女性特有の理由で、こういうふうに質問と回答をほぐさないと理解することが難しいですよね。

伊藤:
まさに先生がおっしゃったように質問紙調査も今補足してくださってより理解が深まります。質問紙調査の結果だけ見て、「貧困で生理用品が買えなかったことがある」と回答した人にだけ渡せばいいでしょ、となりがちですが、質問紙調査結果だけが一人歩きしてしまうこともあるのでデータの見方と出し方にも注意が必要ですよね。

今見せていただいた遠藤先生の調査は、対面で聞いたのかリモートで聞いたのかの調査手法も明確です。数字だけ見るのだけではなく、サンプルサイズ(回答者数)がどのくらいでどうやって聞かれたデータなのか、私たちが日常で触れている調査のデータも果たしてどういう調査方法で、母集団が何で、どういう団体が調査を行っているのかまでちゃんと確認する必要があるなと改めて感じました。

遠藤:
研究の世界ではよく「元のデータを確認しろ」と言われますね。そういった意味でもStatistaのデータはすぐに出典に辿れるのが素晴らしいと感じています。

伊藤:
弊社の創業者が元々コンサルタント出身です。コンサルタントもリサーチが大事な業務の一つですが、インターネットでの検索が容易になりすぎているために、信ぴょう性のあるデータなのかどうか精査をするところから始めないといけません。そして、提案資料や仮説設計の段階で使用するデータの、検証に時間かかかりすぎてしまうと言うところに課題を感じていました。そこで、ソースの確認が取れている信用できるデータだけStatistaのデータベース上に集めて行きましょう、と言うところから始まり、ソース元を明らかにして、みなさんがご自身で確認をしていただけると言うのが特徴の一つですね。

遠藤:
そこにとても共感しました! 国立大学は運営費交付金が年々減らされていて、基礎的なデータベースを恒常的に維持することがとても難しくなっています。そこで私のゼミでは学生が手分けしてアナログの2次データを集め、スプレッドシートで電子データ化しています。それはそれでデータ収集上の要点を把握しやすくなるなど、得られるものがあるのですが、一方で、信ぴょう性が担保されているのであれば、その作業に無駄に時間をかける必要はないとも感じます。そう意味で創業者の方が自身で感じていたニーズでStatistaのデータベースを作ったと言うのは、私にはとても刺さり、大変助かっています。また私の分野がマーケティングなので、特に欲しい情報がたくさん載っています。

活用事例:福島大学 遠藤先生2

スタティスタ導入の経緯

伊藤:
Statistaをご契約いただいた経緯は昨年の図書館総合展でのセミナーにご参加いただいたのがきっかけなのですが、元々図書館総合展には毎年ご参加されていましたか?

遠藤:
元々は、自分の研究・教育活動でたまたまStatistaのサービスを見つけたことから、2019年に無料会員になり、その後2021年の図書館総合展の案内をメールでいただいたのがきっかけです。全学での導入となると私には決定権がなく難しかったため、経営経済学類と食農学類の2学類のみでの導入になりました。

伊藤:
そうですね。最初お話しをさせていただいた際も全学か実際の学生数で金額が決まるのかどうかとご質問いただいたときに、Statistaもプランがいくつかありますので、ご要望に合わせてご提案をさせていただきました。

やはりソースが明記されている、扱っているデータのカバレッジの広さなどが一番マッチしたところが大きかったですか?

遠藤:
そうですね。データが信頼できることと、ユーザーインターフェースが使いやすいことが特に大きいです。ただStatistaのプラットフォームが全て英語(とドイツ語、フランス語、スペイン語)なので、大学によるとは思いますが、履修者数が多い科目で使う場合は少しハードルが高いように感じます。

ゼミだと、対面の少人数クラスなので丁寧に説明ができますが、本学の場合コロナ禍で100人以上のクラスはオンデマンドでの実施となります。例えば「みなさんの好きな業界のデータを集めてグラフを作ってください」という課題を出したら、おそらく使い方の問い合わせが大量にきて収集がつかなくなるのではと懸念しています。学生の英語力にも差があるので、学生によっては敷居が高いように感じますね。

水野:
英語が苦手な方には翻訳サイトなどを活用していただくこともおすすめです。

また弊社のYouTubeチャンネルにもトレーニングビデオがありますのでぜひ学生のみなさんにもご活用いただければと思います。

遠藤: そうですね。機械翻訳も精度が上がってきているので、外部翻訳サイトを活用し、翻訳の揺れに注意して原文も確認しながらレポートを読めば、必ずしも御社のプラットフォームが日本語化していなくても活用できるかなと思います。

[Translate to Japanese:] 活用事例:福島大学様 キャンパス内風景

遠藤先生が注目するフェムテックの分野とは

伊藤:
最後になりましたが、遠藤先生はフェムテック市場ではどの分野のサービスに一番着目されていますか?またこれからどういう風に普及して、どの辺に課題感があるのかなど、ぜひ先生の目線でお伺いしたいです。

遠藤:
ひとりの消費者としては、デジタル技術を使ったサービスで更年期をどのように、より今までよりも過ごしやすくなるのかが気になっています。

普及する分野ですが、マーケティングや製品開発の議論で、市場機会を探すときペインポイント(顧客が抱えている悩み)に注目せよ、と言いますよね。まだ悩みが解決されていないからこそ市場機会があるという考え方です。フェムテックは幅の広い概念ですが、おそらくまずは未解決のペインポイントから広がっていくように感じています。例えば生理用品は「いつも持ち歩くものではない、周期的といっても突然訪れて慌ててしまう、周りに気軽に相談しづらい」と多くの女性が悩みを経験していることなのに、社会的には解決できておらず、ほぼ全て個人で対処していたところに、社会的企業のオイテルのようなサービスが出てきました。

また課題に関しては、一般に導入期の製品は高価格になりがちという点があります。例えば吸水ショーツなど今でこそファストファッションのブランドが1枚二千円くらいで販売していますが、以前は海外の1枚5千円くらいの高額な商品しか手に入りませんでした。ジェンダー平等の観点からいえば誰でも気軽に利用できることが重要なので、吸水ショーツのように早期に低価格化する企業が現れるか、あるいはオイテルのようにユーザーに課金しないで広告モデルでサービスを提供するといった工夫が求められると思います。ジェンダー平等がもっと近づくまでは、いかにユーザーに金銭的負担をかけず導入できるかに着目していきたいです。

伊藤:
まさに生理用品の無償提供はその意向と合致するものですね。ユーザー側に費用負担を強いるようであればあまり意味がない。まさに根底にジェンダーギャップの問題があり、女性特有のペインポイントをどう解決するかの観点で言うと、そこにジェンダーギャップが埋まりつつ解決できるサービスや商品が増えるといいな、と一女性として思います。

いつくるかわからない生理に備えて嵩張る生理用品を常に持ち歩いたり、今まで何十年も嫌だと感じていたが当たり前すぎてそれがペインポイントと言うこと気づいていなかったことがオイテルと言うサービスを通して、気付かされました。生理用品以外にもそれがペインポイントだということ自体に気づいていなかった社会課題たくさんあると思います。そんなところにうまく目をつけて解決してくれるビジネスがもっと日本から出てくるといいですね。

Statistaに「Women’s health and FemTech market in Japan」(日本における女性の健康とフェムテック市場)というレポートがあります。フェムテックの定義は、テクノロジーで女性が抱える社会課題を解決することですが、このレポートの中身を見るとあまりテクノロジーが関係ない内容も含まれております。このことから、ジェンダーギャップを埋めるよりも以前にまずは知ってもらうことから始まるのだな、と感じました。

遠藤:
そもそもこの手の問題は話題にしづらい扱いもされてきました。ジェンダーギャップの話をすると、男子学生は責められていると感じることがあるようで伝え方に工夫が必要だと感じています。多くの人はなんらかの「特権性」(社会的マイノリティに比して、社会的マジョリティは社会生活上の障壁にぶつかりにくいこと)を持っているのだけど、そこに自覚が及んでいないことをどう伝えるかという問題とも言えます。その際に責めるのではなく「実はそうだったんだ」という気づきを与えられるといいなと思います。私は、女性という点ではマイノリティですが、国籍、母語、職業といった面では、日本社会のマジョリティです。だから私もマイノリティの障壁を下げる責任がある側なんだよと。

伊藤:
どうしてもこう言うテーマは言い方や伝え方によっては攻撃されていると思ってしまう人も一定数出てきてしまうテーマだからこそ、どう伝えてどう表現するかも大切ですね。

女性と男性のジェンダーギャップを埋めていこうと言うのが当たり前に言われるようになってきましたが、私たちの上の世代やその上の世代が声を上げて、活動してくれたから今があり、それでも解決し切ってないものに関しては私たちの世代が声を上げるなり行動に移すことで、次の世代の女性がより生きやすいよう世の中になるように、私もできることをやっていきたいなと思いました。

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