【三越伊勢丹×Statista】
データは議論のきっかけ。三越伊勢丹デジタル新規事業における統計データの使い方
世界の主要な業界、市場調査や消費者動向に関するデータや統計を提供する世界最大級のデータプラットフォーム「スタティスタ」。連載「データの達人に会いに行く」では、様々な業界や職種でデータを扱うプロフェッショナルをお招きして、データとビジネスの関係を伺います。
今回お招きしたのは株式会社三越伊勢丹(以下「三越伊勢丹」)デジタル事業グループの堀 寿美世さん。三越伊勢丹内で、データを駆使しながら新規事業を担っています。
統計データを駆使して新規事業のプランニングを行う術とは。そして、どのような新規事業を産み出してきたのか。そしてデータ活用の未来とは。スタティスタ・ジャパン株式会社カントリーマネージャーの津乗が伺いました。
数十の候補から実現した、三越伊勢丹のデジタル新規事業
津乗:
三越伊勢丹さんでは現在様々なデジタル施策に取り組まれていると伺っています。データやデジタルという言葉を、会社が頻繁に使うようになったのはいつ頃からですか?
堀:
2017年に社長が今の杉江に変わりました。そのときから「デジタルトランスフォーメーション」「データを活用する」という会話が経営層の言葉として使われ始めた気がします。
株式会社三越伊勢丹 デジタル事業グループ
堀 寿美世
プロフィール
2011年株式会社三越伊勢丹に入社。伊勢丹新宿店のデザイナーズブランドを多く取り扱う編集平場の販売から商品調達を経験。2015年から2年間海外事業部にて、クールジャパン機構プロジェクトとしてマレーシア店舗の開発に携わる。2017年に昇格後、営業戦略部を経て、現在に至る。
堀:
と言っても、まだまだデジタルは会社としてインストールしている最中。デジタル、データドリブン、アジャイルといった新しい働き方を導入し、私が所属するデジタル事業グループは3年間、たくさんのトライアンドエラーを繰り返してきました。その中で学んだことを百貨店側にインストールしているところです。
津乗:
今はどのようなデジタルの新規プロジェクトを進めているのでしょうか。
堀:
2018年から6つのプロジェクトをローンチしています。何れも少子高齢化でマーケットがシュリンクしていく中、当社は百貨店がなかなか取り込めていない若い世代の新規顧客獲得が課題です。そこで我々が強みとしていて、かつデジタルの脅威も強くなっている領域において、デジタル関連の新規事業を創り、市場を開拓していきたいと思って作ったものが、以下の6つです。
1. “デパ地下”からの定期宅配サービス「ISETAN DOOR(イセタンドア)」
2. デパートコスメからプチプラコスメまで取り扱うコスメの専門ECサイト「meeco(ミーコ)」
3. ソーシャルでも送れるオンラインギフトブティック「MOO:D MARK(ムードマーク)」
4. オンライン完結型カスタムオーダー「Hi TAILOR(ハイ・テーラー」
5. バイヤーの目利きが入った返礼品が並ぶ「三越伊勢丹ふるさと納税」
6. オンラインパーソナルスタイリング「DROBE」
1つ目はオイシックスと協業した、食品やデパ地下高級食材をはじめとする定期宅配サービス「ISETAN DOOR(イセタンドア)」。2018年6月にローンチしています。今までのリアル店舗ですと、我々がどんな企画や装飾をしても、お客様のご来店をお待ちするしかありませんでした。しかしISETAN DOORは我々から定期的にお客様の玄関に伺います。「定期的に」というのは百貨店業とは全然違う考え方で、平均30回以上のお客様との接点をさらに活用しようとも考えています。
次にコスメの専門ECサイト「meeco(ミーコ)」です。女性はデパートコスメだけでスキンケアやメイクをするわけではなく、ドラッグストアに置いてあるようなプチプラコスメと組み合わせます。どちらも1つのカートで購入でき、最短で当日発送というスピードがお客様に喜ばれています。コロナ禍でお店が通常営業できない中で、現在絶好調で伸びています。
3つ目が「MOO:D MARK(ムードマーク)」。ギフトやプレゼントの通販サイトで、相手の住所を知らなくても、発行したURLをLINEやメールで送ることで、相手方に贈り物ができるソーシャルギフトという機能を備えています。MOO:D MARKの商品単価は百貨店と揃える必要がないので、店舗よりもう少し購入しやすい商品ラインを揃えています。ギフトに特化した読み物的なコンテンツもあります。元々はtoCのサービスとして展開していたのですが、昨今は「コロナで内定者懇親会が開けない」「株主総会に株主が来られない」等、企業がソーシャルでプレゼントを贈りたいと利用されるケースが出てきました。こういうニーズもあるんだな、とやってみなければわからなかったことですね。
4つ目はファッション系のサービス。スマホで写真を2枚撮るだけで、体の採寸ができ、厳選された生地やパーツを選ぶと、シャツやスーツをカスタムオーダーできる「Hi TAILOR」です。価格は百貨店の商品よりかなりリーズナブルでありながら、品質やセンスは伊勢丹メンズ館譲りという新しいバリューチェーンを確立したサービスです。
5つ目に「三越伊勢丹ふるさと納税」。三越伊勢丹のバイヤーが選定した、お肉やお米といった品質の高い食材から各地の優れた工芸品、さらに旅などの体験企画まで、返礼品として揃え、納税という形で地域貢献ができるサービスです。
最後に2019年4月に子会社として設立した「DROBE」。完全オンラインでの接客、三越伊勢丹の優秀なスタイリストの感度・おもてなし、そこにAIを掛け合わせることで、お客様にとって最適なコーディネートが厳選され、ご自宅にいながら試着・購入いただけるサービスです。
津乗:
すでに6つもの事業をローンチされているのですね。アイデアレベルだと、その何十倍もあったんじゃないでしょうか?
堀:
そうですね。アイディアとローンチの間にPoCもあって、例えば現在日本橋三越の店頭で、サスティナブルな取り組みのトライアルをしているところです。残念ながら諦めたアイディアもいくつかあります。
津乗:
たくさん同時進行で進めていますね。新型コロナウイルスはやはり三越伊勢丹の新規事業にも影響を与えたでしょうか?
堀:
ご承知の通り、コロナの影響でまだまだお客様は戻らないですし、リアル店舗は厳しいのが現状です。一方で消費者がこれを機に、定期宅配やサブスクリプションにチャレンジしてみるという機運も高まっています。そういったことにチャレンジしているデジタル事業グループとしては追い風ですね。とはいえまだまだ百貨店の利益を補えるような規模ではないのが心苦しいところです。もっと頑張らないといけませんね。
透明性を示すデータは? ブラジルのデータから議論が始まる
津乗:
様々な新規事業を精力的に仕掛けている三越伊勢丹ですが、データはどのように活用していますか?
堀:
一般的に新規事業を立ち上げる際に、しっかりとデータを見て「可能性がある領域」だと認識し、その領域が会社の経営戦略やポートフォリオと整合することを確認して、「ここは踏み出すべきだ」と判断しますよね。そのためには統計データやアンケートデータ等、色々データが必要です。
データが必要なときは一般的に、外部のコンサルティングファームにお願いすることが多いと思います。ただ情報の勘どころやまとめ方は事業側がもつべきだと思っています。自分の意志でやりたいと思うこと・やるべきことを練るためのアイディアフェーズで全て丸投げしてしまうのはよくない。自分たちで手を動かしたい。しかもなるべくコストをかけずに。そんなときに「なんて良いツールが!」と出会ったのがStatistaでした(笑)。
津乗:
「なんといいツール」とは(笑)。嬉しい限りです。「調査の内製化」を推進しているとのことですが、具体的にはどのようにStatistaをどのように使っていただいているのでしょうか。
堀:
Statistaでデータを調べていると「このデータ、いい感じだな。もう少し調べたいな」と思ってクリックしていくと、さらに色んなデータが出てきますよね。それがすごい。自分たちでは探せないような中国のソースとかも出てきたりして。先日は海外事業部から「越境ECで調べたいことがある」と問い合わせがあって、Statistaで調べました。
堀:
何か調べるときに、最初は何もわからないので、適当に用語を入れるんですよね、越境ECだったら「cross-border commerce」みたいな。そうするとグラフやビジュアルが出てきて、だんだん調べたいことが自分の中で言語化されてきます。それをまた調べて調べて……の繰り返しです。Statistaの中ではPublication Finderと、Global Consumer Surveyの2つの機能はお気に入りで、よく使っています。
Publication Finder: 世界中の文献サーチに特化した検索エンジン。企業、業界団体、大学等が発行する300万超のレポートから強力な絞り込みが可能。
Global Consumer Survey: 世界55ヵ国、70万件以上の消費者アンケートデータをもとに、自在にセルフ集計できる優れもの。
津乗:
Publication Finderは僕も大好きなんです。「こんな会社がこんな資料を作っていたんだ」という発見もあるし、ググっていたら日が暮れる作業が数秒で終わる。図書館を高速でスキャンしているような、研ぎ澄まされていく感覚があります。自画自賛になってしまいますが、Global Consumer Survey はとにかく凄い。遠く離れた国の消費者の顔に掛かっていたモザイクが除去されていくような、もしくはグッとズームインして解像度が上がるような、眼から鱗のツールです。
堀:
そうですね。そのおかげか、各事業の悩みや課題を聞いた時に「この市場規模を調べてあげたら助けてあげられるのではないか」「このアンケートを取ったら、判断の参考になるのではないか」と考えるのが癖になりました。
津乗:
Statistaを使っているからといっても、もちろんデータ収集自体に目的があるわけではないですからね。あくまで、データを課題解決に使っているということですね。
津乗:
ところで、既存の事業はこれまでの歴史があるので、既にデータも知見もお持ちかと思います。他方で新規事業ではそれらがないわけで、そのときこそデータの価値が発揮されるのかなと思います。新規事業を考える際のデータに関するエピソードはありますか?
堀:
例えばサスティナブル事業を検討する際に、「いろいろな企業がサスティナブルとは言うけど、サスティナブル事業においてはお金の流れに透明性が強く求められる」という話が持ち上がったんです。じゃあ透明性が高いことを示すデータや事例はないかなと思って試しにStatistaで探してみました。
そうしたらブラジルのデータが一つ出てきたんですよね。ブラジルにおけるファッションブランドや小売りの信頼性・安全性が上昇した企業のランキングなのですが、上昇率の高い企業を調べて、透明性を上げるための取り組みを参考にしました
(Source) https://www.statista.com/statistics/1125636/highest-growth-rates-transparency-fashion-brands-brazil/
津乗:
統計データが議論を触発し、そして深めたということですね。
堀:
この内製シンクタンク機能は、デジタル事業グループだけに留めてはいけないと思い、部署横断で依頼を受けています。逆に言えば、当社は色んなファーストパーティーデータがあるんです。これって三越伊勢丹ならではの濃いデータなんじゃないかと思っているんですよね。
津乗:
三越伊勢丹が扱っているファッションや食の分野となると、嗜好性がかなり強そうです。そういう意味では、同じ小売とはいえども、百貨店やスーパー、コンビニなどの業態に応じて違う種類のデータが得られるように感じます。
堀:
そういうところを探っていきたいですね。ファーストパーティーデータとサードパーティーデータに、統計データやシンクタンク機能を重ね合わせたデータアナリティクスができたらいいよねという話を内部ではしています。
データの活用を考えたときに、例えばデータの外販が考えられますが、どうしたら他社が欲しがるデータになるか、という視点で考えてみるのも面白いですね。色々な妄想が膨らみます。今データは社内の利用が多いのですが、将来的には三越伊勢丹の発信力や場と現在チャレンジしているシンクタンク機能を掛け合わせたマーケティング支援事業まで手掛けられることが夢ではあります。
社内チャットツールでデータ活動を啓蒙
津乗:
データの扱いはデジタルマーケティングのチームが多いとのことですが、データを使う上で社内の運用体制はどうなっていますか?
堀:
繰り返しになりますが、基本的にはデジタル事業グループ内の数名が中心となってデータを扱っています。とはいえ他の部署やメンバーもデータへの関心があったり、逆に啓蒙する必要もあるので、社内コミュニケーションで使っているTeamsで「シンクタンク」というチャネルを作りました。それこそ「Statistaとは」「Statistaで調べるとこんな内容が出てきます」といった内容を投稿をして、「何か依頼があればどうぞ」というような運用にしています。もちろんTeamsだけではなく、社内の色々なところに顔を出すようにもしています。
津乗:
「データと言えばデジタル事業グループ!」という存在になっているんですね。
堀:
まだまだです。そういう感じにしていきたいという段階ですかね。
津乗:
最後に、堀さんが今後データを使って描かれている未来について教えて下さい。
堀:
私の所属する部署ではなく、百貨店のDXを推進するチームが今、続々とECサイトやアプリで、お客さまのサイト内行動や位置情報からいいタイミングでクーポンを出すといった、O2O等の施策を検討しています。しかし、百貨店はまだまだデジタルに対して遅れている業界。Statistaのような統計データや行動データを基に素早く改善が実行されるようなアジャイル型の新しい働き方で、マクロデータとファーストパーティデータ、さらに三越伊勢丹の感度や取組先との協力関係を掛け合わせて発想する新しいイベント等に取り組んでいける会社になればいいなと思っています。まずは出島部隊のデジタル事業グループで、それらを当たり前にしていきたいと考えています。
津乗:
リアルとオンラインの融合にデータが活用されていくということですね。
堀:
そうですね。先程もお話した「百貨店ならではの濃いデータ」というのはまだまだ眠っている気がしているんです。コロナでストップしていますが、お客さまからご許可を頂いた上で、お客様と販売員の会話を匿名データ化し、接客の質向上や商品開発に繋げるといった実験もしていたんですよ。もっと世の中のテクノロジーが進歩すれば、さらに色んなデータが取れるようになっていく。そのときにちゃんとデータを扱える会社になっていたいですね。
津乗:
でもお客様のデータを扱うとなると、一段階ハードルが上がりますよね。
堀:
もちろんそうです。ただ、とある消費者調査で「自分の個人情報を出してもいいと思える業種は?」という質問に対して、百貨店がトップだったんだそうです。そういう意味で百貨店は、お客様もデータを気持ち良く提供できる環境なのかもしれなくて、他業種と比べればチャンスだなとも感じます。
津乗:
数百年続いている、お客様との信頼関係の賜物ですね。
堀:
だからこそ「とにかくデータを取ってビジネスにするぞ」という考え方は良くないなとも思っています。あくまでお客様に気持ちよくなっていただかないといけないですよね。データビジネスは、まだまだ奥が深いというか、勉強しないとと感じます。
津乗:
本日は非常にいい話をお伺いでき、元気も湧きました。堀さん、本日はありがとうございました。
堀:
ありがとうございました。
(執筆:pilot boat 納富 隼平・写真:taisho)
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