【データで考察】コロナがECに与えた消費マインドの変化を振り返る
【データで考察】コロナがECに与えた消費マインドの変化を振り返る
本谷知彦(もとたにともひこ)
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役
新型コロナウイルス感染症の拡大により2020年4月にはじめて日本国内に緊急事態宣言が発令されました。これによる巣ごもり消費の影響で国内のEC市場には突如追い風が吹き、各社ECでの売上が大きく伸びたことは記憶に新しいでしょう。経済産業省の電子商取引市場調査によれば、2020年の国内物販系BtoC-EC市場規模は前年比21.71%伸長し、2021年も前年比で8.61%と高い伸びを示しています。
一方で2022年に入り社会のコロナ対策の徹底と人々のコロナ慣れにより、人流が大幅に増加しました。また2023年にはコロナが5類感染症に移行し、2019年頃と変わらない社会生活レベルに戻りつつあります。そのような状況下、EC市場には売上減少の反動が来ていると言われています。そこでコロナが与えたECへの影響を消費マインドの観点からデータをもとに振り返りつつ、今後に向けての示唆を探ってみたいと思います。
※留意点 : このレポートはStatista社が提供するデータをもとに行っています。同社のデータベースには当レポートで紹介するデータ以外にも、コロナによる経済や消費への影響に関する国内外の膨大かつ多彩なデータが収納されています。
■消費マインド的に実はそれほど強くなかったコロナの影響度
2023年2月に行われた消費者アンケート「新型コロナウイルス感染症拡大の影響でEC購入に変化はあったか?」によれば、「普段と変わらない」が59.1%と最も多い結果となっています。また「とても増えた」「やや増えた」がそれぞれ3.4%、25.4%で「やや減った」「とても減った」がそれぞれ7.9%、3.3%、そして「全く無くなった」が0.8%となっています。この結果は次のように整理できます。
- 過半数を超える消費者(59.1%)がコロナでEC購買行動に“変化なし”と回答。
- 増えたとする回答率、つまり「とても増えた」「やや増えた」の回答率合計が、減ったとする回答率合計「やや減った」「とても減った」「全く無くなった」よりも16.8%高い。
コロナ禍の期間中にEC市場規模の伸長が見られ、数字上はコロナの影響は確実にあったと言えます。このアンケート調査は、コロナが収束に向かう2023年2月のタイミングで行われています。したがって「普段と変わらない」との回答者の中にも、実際には緊急事態宣言下で頻繁にECを利用した消費者が多数含まれていると推測します。とはいえ“変化なし”の回答率が高いことから、コロナが消費者に与えたECでの消費マインド面への影響はそれほど強くはなかった、あるいは一過性に過ぎなかったと捉えることができるでしょう。
■リアルチャネルを好む消費者像
コロナが消費者に与えたECでの消費マインドの変化について、もう少し深く掘り下げてみましょう。先と同じ2023年2月に行われた消費者アンケートでは、日用雑貨に関する販売チャネル毎の買物傾向に関する質問があります。その結果をグラフ化してみたところ、次のようになりました。
最も日用品が購入されている販売チャネルは、ドラッグストアで60.4%、次いでスーパーマーケットが51.7%、100円ショップが48.5%と続いています。ECに関しては45.0%と4位に入っていますが、全体を見渡せばリアルチャネルの強さが目立つ結果となっています。また回答の選択肢自体リアルチャネルが多数を占めており、日本ではリアルチャネルの形態の多様性を同時に理解することもできます。
先の考察では“コロナが消費者に与えたECでの消費マインドの変化はそれほど強くない”と述べました。先の考察結果とこのようにECがリアルチャネルに押されている状況は、一致性が見られます。コロナを経て消費者のリアル回帰とともにオムニチャネルを重視する小売企業を目にします。オムニチャネルの重視傾向は、以上の考察結果の観点から自然な流れと言えるでしょう。
■米国の消費者は日本よりもアグレッシブな傾向
では海外の消費者動向はどうでしょうか?マッキンゼーが2021年2月時点に実施した米国の消費者向けのアンケートによれば、コロナが拡散して以降、実際に挑戦してみた新しい購買行動として「新しいショッピング方法」が40%、「異なるブランド(の購入)」が39%となっています。また異なる小売企業・小売店・ECサイト(からの購入)」も34%と高く、「新しいデジタルショッピングの方法」といったECに直結する回答率も29%と決して低くはない数値です。
このアンケート結果を見ると、販売チャネルに止まらず、異なるブランドの購入にまで少なからずコロナは影響を及ぼしていることがわかります。他国と比較し日本人の性格は控えめな国民性と言われることがあります。そういったことも要因に挙げられるかもしれませんが、日本と比較し米国の消費者はよりアグレッシブな傾向にあるようです。
ただし、このアンケート調査は2021年2月時点というコロナが大流行中のタイミングで行われている点には留意が必要でしょう。この結果をひとつの参考と位置付けた上で、コロナ収束後の正確な状況を把握するために、次の項では2022年11月に実施された世界規模での消費者アンケート調査を題材に考察を行ってみましょう。
■世界規模で見ても米国と同様の傾向
次のグラフは2022年11月に米国、英国、ドイツ、フランス、オーストラリアの消費者を対象とした、コロナ以降に買い物の習慣が変化したことに関するアンケート調査の結果です。「ECでもっと購入するようになった」が68%と高い一方で、「ECでの購入を減らしてリアル店舗での購入を増やした」がわずか16%に過ぎません。
調査時点である2022年11月は各国ともコロナの感染状況が落ち着いている時期ですので、そのようなタイミングであっても世界規模で見た場合ECの利用意向が衰えておらず、コロナによってECが得た勢いがそのまま続いているように映ります。このあたりは日本と様相が異なっており、引き続き動向をチェックしておきたいところです。
尚、前項で考察した米国のアンケート調査結果は2021年2月時点のものでした。この世界全体でのアンケート調査は2022年11月実施ということもあり、正確な状況把握のための参照性が高いと想定される点を付記しておきます。
■考察結果から得られる示唆
それでは最後に本レポートのまとめを以下に記します。
- 日本では、コロナが消費者に与えたECでの消費マインド面への影響はそれほど強くはなかった、あるいは一過性に過ぎなかった可能性が考えられます。
- オムニチャネルを重視する小売企業を目にしますが、考察結果の観点から自然な流れと言えるでしょう。
- 一方で米国に目を向けるとコロナの影響は販売チャネルに止まらず、異なるブランドの購入といったレベルにまで影響を及ぼしており、日本と比較し米国の消費者はよりアグレッシブな傾向にあるようです。
- 世界規模で見た場合、ECの利用意向は衰えていないことがわかります。
以上の考察結果から得られる示唆として、次の点に触れたいと思います。
- 日本の場合、引き続きECは重要な販売チャネルであることに変わりはありませんが、大局的な目線で捉えれば、リアルチャネルの重要性は失われておらずオムニチャネル、またはOMO(Online Merges with Offline)が消費マインドの点からキーとなるでしょう。
- 諸外国は引き続きECでの消費マインドが高く維持されているため、日本企業としてそれを商機と捉えるのであれば、越境ECがひとつの重要な施策として有効と考えられるでしょう。
本レポートが皆様のお役に立てることが出来ますよう心より願っております。
以上