【iU×Statista】
統計データは起業アイデアの宝庫。イノベーションを生む大学のインフラに迫る
世界の主要な業界・市場の調査や消費者動向に関するデータや統計を提供する世界最大級のデータプラットフォーム「スタティスタ」。連載「データの達人に会いに行く」では、様々な業界や職種でデータを扱うプロフェッショナルをお招きして、データとビジネスの関係を伺います。
今回お招きしたのは(以下「iU」) 専任教員・非常勤教員の松村 太郎さん。ジャーナリストとして活動する傍ら、iUで教鞭も執っています。
今回は、ビジネスを学ぶ大学生のデータの使い方、データを使った知見の広げ方、iUだけでなく色々な大学にStatistaを使ってほしい理由等を伺いました。聞き手はスタティスタ・ジャパン株式会社カントリーマネージャーの津乗と、ビジネスデベロップメントマネージャーのエリーです。
恵まれている日本はITが発展しない?
津乗:
松村さんはジャーナリストと教員という、2つの顔がありますよね。それぞれに行き着くまでの経緯を教えて下さい。
松村:
私はもともとフリーランスのジャーナリストとして、テクノロジーとライフスタイルの関係性を取材していました。そのため特に好きなアップルも含め、テクノロジーの中心地であるシリコンバレーに憧れがあったんです。
松村:
そんな中、ちょうど10年前の2011年8月24日、スティーブ・ジョブズがアップルのCEOを退任し、その後亡くなりました。もう直接取材する機会はないのかという悲しみと、同時に「このままだと大事なものを見逃すかもしれない」という気持ちが湧いてきたんです。そこですぐに渡米の準備をして、11月10日にはカリフォルニア州サンフランシスコの北にあるバークレーという街に引っ越していました。
シリコンバレーから日本に入ってきているものはたくさんありますが、日本にいる立場からすると「これって何がすごいの?」とクエスチョンマークが浮かぶものも結構あると思うんです。最初のiPhoneにしても、日本のガラケーの方がすごかったと思います。シリコンバレーに行ってよかったなと思うのは、そういった製品がなぜ生まれたのかという背景を、身を以て知れたことです。
つまり、シリコンバレー、ひいてはアメリカは、日本に比べて圧倒的に不便なんです。日本はIT以前のインフラにとても恵まれています。こう言うと不思議がられるのですが、手を挙げればタクシーが来るし、コンビニでいつでも買い物ができますよね。しかしアメリカはそうではない。その環境差を乗り越えるための道具が、スマートフォンやアプリなどのITというわけです。これに気付けたのは大きな発見でした。シリコンバレーという場所は血眼になって人々の不便を見つけようとしているんです。
帰国してみて、改めて日本は不確実性が低い社会だと感じています。しかし「本当に不便はないの?」と疑問を投げかけると、実は社会問題はたくさんあるわけです。そのため不便を解決する手段として、テクノロジーやライフスタイルの分析、ビジネスを扱う人たちがたくさん出てきてほしいという感情は、僕にとって必然でした。それで情報経営イノベーション専門職大学(iU)に赴任し、イノベーションという壮大なテーマについて、学生と一緒に切磋琢磨することになった、というわけです。
津乗:
iUが開校したのはコロナの真っ只中でしたよね。
松村:
情報経営イノベーション専門職大学が開学したのが2020年の4月。コロナ禍の真っ最中で入学式もできない状況でした。ただそこでも役立ったのはテクノロジーです。オンラインで授業をやると学校が決めて、そこから具体的に何ができるか、何が一番快適かを実験していきました。始めから完璧なわけはなくて、学生から「音が聞こえづらい」「画面が暗い」といったフィードバックをもらいながら、環境を整備していったんです。試行錯誤しながら最適解を見つけるという作業は、イノベーションを扱う大学っぽかったですね。
津乗:
まだ試行錯誤の段階だからこそ、学生と一緒に取り組んだんですね。
松村:
その通りです。一つ面白い話があって、学生からは何でもフィードバックを得るようにしていたのですが、その中に「眠い」という意見があったんです。今までだったらそんなの学生のせいにしましたよね。しかしよくよく考えると、彼らが普段見ている映像というのは、面白おかしく作ってあるYouTubeなわけです。大学教授の講義はYouTuberの動画と比較されている。そう考えると納得してしまう部分もある。「画面の前に1時間半、3時間と座っていたらそれは眠くなるな」と。
津乗:
講義する側もコンテンツという意識が必要だと。
松村:
そうですね。面白おかしくやればいいというわけではないですが、オンライン環境下ではそれに合った講義が必要です。例えばZoomには、40人を瞬時にランダムに4人グループに分けられるブレイクアウトルームという機能があります。「4人で議論して3分後に帰ってこい」なんてことを教室でやったらパニックになってしまいますが、Zoomだったらそれが一瞬で実現できるわけです。3分経ったらブレイクアウトルームを強制終了してしまえばいい。こうやって、むしろテクノロジーだからこそできる講義の形態があるんだなと学べたという意味では、いい機会になりました。
2021年になったら、今度は学生が大学に来れるようになって、「ハイブリッド」「ハイフレックス」という状態が当たり前になっています。学校で講義を受けてもいいし、オンラインで受けてもいい。コロナがなかったら「全員、学校に来い」だったはずなので、授業の受け方も広がってきました。
専門と専門を繋ぐ、教養という価値
津乗:
今日は大学の図書館をお借りしてインタビューしていますが、図書館もコロナ前後でその在り方が変わったのではないかと感じています。「コンテンツがデジタル化されていつでもどこでも読めます」というだけでなく、新しい情報との出会い方や、深掘りの仕方や広げ方についてはどうお考えですか?
松村:
大前提として、自分の求める情報が素早く手に入る世の中になりましたよね。逆に言うと、興味がない、あるいは知らない情報を目に触れる機会が減っていますよね。
津乗:
所謂フィルターバブルですね。
松村:
その通りです。フィルターバブルが氾濫しているおかげで、多様なデータに接する機会が減ってしまっているのは現代の課題です。だから学生には「気になったことがあったら、とりあえずGoogleやStatistaで検索してみたら、何か答えが返ってくるよ」と言っています。それが自分の欲しいデータならそれでいいですし、そうじゃなくてもそこから他のデータに繋がっていって、いずれ面白いデータに遭遇する。
エリー:
考え方が絞られてきちゃいますよね。新しいことを知っていかないと自分の世界が広がっていきません。
松村:
これはデータではなく、例えば音楽も同じですよね。「この曲を聴いている人には、こちらの曲もお勧めです」と、似ているテイストの曲がレコメンドされる。他方でそうじゃない曲はレコメンドされないわけです。普段とはテイストが異なる曲を聞いてみると「なんでそのリズム、そっちにいくかな」「そのコード、こっちに戻ってよ」といった気持ち悪さがあるものです。
しかし聴いているうちに曲の意図や良さが理解できるかもしれない。フィルターバブルがある世界だと、こうした苦痛の先にある世界がなくなっているんじゃないのかなと感じているところです。
津乗:
ビジネス目線だとどうしても、欲しいデータをピンポイントに探してしまいます。だけど学生のように時間があるときに、長い本を読むようにStatistaを探索してみるのは、いいかもしれませんね。新しいドアが開かれるかもしれません。
そんな中現代に求められているスキルは、俗に言うSTEM。Science、Technology、Engineering、Math。あるいは「A(Art)」を加えたSTEAMですね。
松村:
「ICTと英語とビジネスは3本柱」だとiUでは教えています。ただ「ICTに精通したからビジネスができるのか」「英語ができるからビジネスに長けているか」と言われるとそうではない。柱(要素)の間を繋ぐ文脈みたいなものがたくさん必要で、それが教養やSTEMといったものだと認識しています。
松村:
例えばユーザーエクスペリエンスを語るには、エンジニアリング、デザイン、マーケティング等複数の要素が必要です。このように1個の分野では語れない話が増えています。なので要素の間がどのように繋がっているのかという自問が必要です。講義にしても単に聴いていればいいわけではなく、自分の中で要素を連結させながら消化していくということが必要になってきています。STEMという素養があるかないかで、ブリッジを強くできるのか、たくさんかけられるのか、1本柱になってしまうのかが変わってくるでしょうね。
エリー:
確かに、昔だと文系は文系、理系は理系と別れていましが、今では理系の方もマーケティングのことを知らないと商品が売れない時代になってきました。逆も然りで、文系の方は構造がわからないと商品が売れません。
松村:
もちろん専門はあっていいと思うのですが、相手のこともある程度わかっていないと話ができない、という時代になってきました。これだけコラボレーションを進める中で新しいものが作られる中では、相手の真意をわからない人は活躍できないでしょう。どうやって共通言語を見出すかということは、問い続けないといけないですね。
データを「後押し」に使う学生
津乗:
Statistaは統計・調査データのプラットフォームなのですが、専門と専門をブリッジするという意味で、統計・調査はiUではどのように扱われていますか?
松村:
例えば、昨年iUで誕生したSHEAMBという、シェアアンブレラのプロジェクトがあります。この問題意識は昨今のビニール傘の廃棄でした。では年間日本でどの程度のビニール傘が廃棄されているのかと数字を調べたら、とんでもない数だということが判明します。廃棄されるビニール傘の中にはまだ使えるものもたくさんあって、だったら地域や社会の中で無駄にしない仕組みがあればいい。学生の「こんなにたくさんのビニール傘が廃棄されている」という、データを使った気付き・驚きからこのプロジェクトは始まったんです。
松村:
映像や表現に可能性を感じている学生のグループの例もあります。彼らは学校の中のサークル活動だけに飽き足らず、映像をビジネスにしたいとも思っていました。でも一方で、ビジネスにするほどのめり込んで大丈夫なものかと不安も抱えていたんです。そこで映像制作や配信の市場規模の推移というデータに当たりました。そうしたら、右肩上がりで今後5年間で売買に増えていく市場だということがわかった。これが後押しになって起業を決意しています。
このように、何かの気付きのきっかけだったり、背中を押してもらうためにデータを使うということが、学生の中にはあるようです。日本は不確実性が低い社会だと先述しましたが、これからはどんどん不確実性が高まっていくはず。そうなった際にスピード感をもって課題や解決策論理立てて考えることは重要です。そのための手持ちのカードとして必要なのがデータです。
津乗:
Statistaとしては非常に希望がもてるお話です(笑)。ビジネスと統計という意味では、通常やりたいことがあって、そのバックアップのために数字を使いますよね。しかし学生は数字から着想を得て、そこからビジネスを生んでいったということですね。
松村:
データには色んな使い方があると思いますが、行動のきっかけ、理由付け、後押しという使い方は、学生を見ていて面白いと感じているところです。
それに限らず、あるデータを見つけたら「この背景はどうなっているだ」「他の国はどうなっているんだ?」「この国ではどんな対策がされているんだ」と、どんどん関連事項を調べますよね。ある数字がきっかけになって、自分の世界がどんどん広がって、ピースを埋めていく。数字がどうなればより良い社会になるんだ、と指標にするのもいいですよね。
津乗:
iUの学生はそういったことを意識した教育を受けていると思うのですが、具体的にはどのような授業をしているのですか?
松村:
去年設立したばかりの大学なので、まだ2年生までしかいないのですが、学生の中には起業志望も就職希望の方もいます。授業として特別なのは、自分たちのビジネスプランを作ったりケーススタディの訓練がずっとあることですね。特に2年生は、海外のビジネススクールと同じような教材でケーススタディに取り組んでいて、与えられた情報・条件・データから色々なことや最適解を導き出す訓練をしています。学生の中には早く社会で力を試してみたいという人もいるんじゃないですかね。待ちきれない人は起業してしまうイメージです。
津乗:
そういう学生がどんどん世に出ると、逆に今まで「勘と経験と度胸」で生きてこられたような現役の世代は、大変な思いを強いられますね。
松村:
そうですね。とはいえ、それで成功してきたり、うまくいっていた部分があったのも事実です。だから若い世代は「勘や度胸」を科学することが必要になってくるかもしれません。「俺の背中を見ていろ」がやりづらくなったからこそ、データで分析をして「こういうふうにやればうまくいっているんだ」と説得しなくてはならない。上の世代の方は是非、分析されたりデータ化されるのを気持ち悪がらずに受け入れていただきたいなと思います(笑)。
データをみたときに感じるべきもの
松村:
iUはStatistaを導入していて、統計・調査を調べる上で大変役立っているのですが、もう一つ重宝している点があって、それが毎日届くニュースレターです。これがいい。
津乗:
Statistaのレターは、グローバルなニュースがインフォグラフィックと英語の文章とセットになって毎日届くようになっています。
松村:
英語でファクトを読むことも大事だし、ビジュアルも付いているので読みやすいんですよね。
当然ながら世界のニュースに目を向けるとことは非常に大事です。例えば「原油価格が上がっています。過去の原油価格はどうだったのでしょう」という問いかけがあって、データがあれば「ああ、100ドルを超えたことがあったんだ」と気付きを得られます。
また例えば、iPhoneが発売された際には色んなデータが送られてきます。そこから「今年のiPhoneはあまりGoogleのトレンドに入っていない」「でもApple Watchは発売から成長を続けている」というデータからも学びがあります。
松村:
ニュースレターという形ではなくても、Statistaはレポートという形で色々な情報を纏めてくれているのが便利です。先日は携帯通信の5Gに関するデータを探していたのですが、様々なデータが一つのレポートに纏まっていて助かりました。欲しいデータは端末の販売台数だったのですが「端末の販売台数よりも契約者数を見た方が普及の度合いはわかるかも」なんて疑問も浮かんできます。
津乗:
宣伝になってしまうのですが、Statistaは世界4500の学術機関やトップレベルのビジネススクールにも導入されているんです。極端に言わせてもらえば、StatistaをiUに導入していただければ、彼らと同等の調査環境を整えられるんです。
松村:
ケースの資料は古かったりするので「何か自分の感覚と違うな」と思った時に最新のデータに当たるのは大事ですよね。それによって自分の「おかしいな」というセンスが正しいのかどうかもわかります。
エリー:
現代は日常生活でも色んなデータが溢れています。なのでどうやってデータ分析するかも重要なスキルですよね。iUみたいに早めに準備するのはいいことだと思います。
津乗:
Statistaは当然調べ物に使ってもらっているのですが、授業や学生生活ということを踏まえると、どのような使い方をすれば学生としてはスキルが伸びるのでしょうか。
松村:
何か物事を考えたり、情報に触れた時、特に疑問符が浮かんだ時に、まず調べてみることですね。
イメージどおりのデータが返ってきたら「やはりそうなのか」と思えるし、場合によっては「その情報は解釈が違うんじゃないか」「最新のデータではもう少し話が進んでいるよ」という気付きが得られるかもしれません。近年ファクトチェックをするメディアが存在感を増してきていますが、自分でも統計やデータを検索してみて、ファクトチェックする習慣をつけるのは大事だと思います。
また、単にデータを受け取るのではなく、先ほど言ったような、後押しや気付きにまでデータを絡ませることは大事です。自分で納得できるデータをもっているのは強いものです。Google検索で大まかなトレンドを掴み、細かいデータや最新のデータをStatistaで検索するという、二段構えの習慣が付くといいなと思います。
また、Statistaのデータは綺麗にビジュアライズされていますが、それを自分のスライドに落とし込んでみたり、もっと加工してみたりといった作業も学生にはできるようになってほしいですね。最近は映像での表現も重要になっているので、そこでグラフやデータをかっこよく提示できたら、映像の説得力も増すと思います。ここのアドバイスはStatistaにしてほしいところです(笑)。
松村:
Statistaは先生たちにも是非使ってほしいんですよね。例えば環境問題を調べようとしたら、Statistaにはグローバルなデータが蓄積されている。各国政府や国連の機関のデータを調べたりするよりも、早く綺麗なデータが取得できるわけです。
津乗:
リサーチの劇的な時短はStatistaの便利な点だと思います。データの取得自体に時間をかけるのは勿体ないので、データから何を考えるかというところに時間を使っていただきたいです。
データを使う人が増えることが、自分たちの価値にもなる
津乗:
ところで、Statistaを使ってiUの学生がどんどん学習してくれているわけですが、単にユーザーなだけでは勿体ない、と松村さんと意見が一致したんですよね。
松村:
Statista、ひいてはデータや統計の利用を、他の大学や高校に広めていきたいんです。なぜかというと、データという共通言語を使える人が増えることは、結果として自分たちの住みやすい世界だからです。事実・ファクトに基づいて議論するということは、研究でもビジネスでも大前提。ところが今、その大前提が崩れかけている。ファクトチェックが活躍しているのもその現れかと思います。
ではこの大前提をどう作り上げるか。この点、データにみんながアクセスできるインフラが整わないと、ファクトから議論が出発できないのは当然です。だからStatistaとiUでこれから手を取り合って、データ環境を整える取り組みを開始していこうと画策しています。
津乗:
今日の時点で具体的に発表できることはまだないんですけどね(笑)。リリースまでお時間を少々いただければと思います。
松村:
まずは他の大学でStatistaを使う仲間を増やしたいですね。どこでも使えるようになれば、色々な教育現場で色んな使い方がされていくようになると思います。それが我々にとっても刺激になる。新しい使い方や、「こんなデータがあるよ」という発見が共有されてみんながそのデータを見るということが起きると、学びの機会が増えます。なので仲間を一緒にどんどん増やしていきたいですね。
津乗:
大学はもちろん色んな法人にStatistaを使ってもらえるよう頑張っているのですが、いずれユーザー間で産学協同みたいなものが生まれればいいなと思っているんです。データをもとに企業と大学がコラボして、どんどんイノベーションが生まれていく。そんな未来を描いています。
さてそろそろお時間です。松村さん、今日はありがとうございました。
松村:
ありがとうございました。
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(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:taisho)