インシュアテック（InsurTech）とは、保険（Insurance）とテクノロジー（Technology）を組み合わせた造語で、保険業界に革新をもたらすアプローチとして注目されており、業務プロセスの改善や収益力向上につながると期待されています。世界のインシュアテック投資額は2018年にピークを迎えましたが、その後も100億米ドル以上の規模で推移しています。保険とテクノロジーの融合は、旧態依然とした保険業界を変革する可能性を秘めていますが、いくつかの課題も残ります。
Statista Consumer Insightsの調査では、保険料割引の交換条件として、行動データを保険会社と共有することに積極的な消費者が一定数存在することがわかっています。しかし、行動データの共有や個人情報の収集に対する意見は、国や地域によってさまざまです。英国では、保険契約者の約3人に1人が「企業が個人データを集める理由は理解できるが、できれば収集しないで欲しい」と答えています。
インシュアテックは、保険業界が抱える多様な課題をイノベーションで解決してきました。その一例が、RPA（ロボティック プロセス オートメーション）の導入です。RPAとは、AI（人工知能）や機械学習などの認知技術を用いて、人間が従来行ってきた作業を自動化する技術です。RPAの導入により、保険会社での営業、クレーム対応、バックオフィス業務が効率化されました。これにより、人件費やオフィス賃料などの諸経費を削減し、より手頃な価格で顧客にサービスを提供できるようになりました。この理念を限界まで追求し、顧客とのやりとりをオンラインに限定する企業も現れています。米国や欧州を中心に事業を展開するレモネード（Lemonade）は、こうしたディスラプター（破壊的企業）の一例です。同社は、顧客からの問い合わせやクレームに対し、AIチャットボットのみで対応しています。この事業モデルが成功を収め、レモネードの収益は、2017年から2023年までに200倍以上増加しました。同様の動きは中国でもみられ、同国初のネット損保である衆安保険（ZhongAn Insurance）の収益も、近年飛躍的に増えています。同社は、2024年上半期の総収入保険料が約150億人民元に達したと報告しています。
インシュアテックは、保険業界にさらなる変革をもたらすと期待されています。人の手による作業が必須の業務もありますが、テクノロジーの活用で業務効率を高めることは可能です。多くの保険会社は、アンダーライティング部門（保険契約の引き受け、保険料や契約内容の管理、保険金・給付金の支払いを行う部門）を中心に自動化を仮導入しています。
また、前述のレモネードなどの業界大手は、1人当たり1,500種類を超える顧客データを収集しています。集められたデータはアルゴリズムにより分析され、業務の効率化と精度の向上に役立てられます。最終的には機械の分析結果を人が確認する必要がありますが、技術の応用で企業リスクを削減できます。
保険業界では、保険料収入の低い中小企業の大半がアンダーライティング部門で自動化を採用しており、保険料収入が10億米ドル以上の大企業でも同様の傾向がみられます。インシュアテックは、保険業界における技術的進歩を確実なものにし、リスクを軽減して業務効率化を実現します。
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