製造・輸送

韓国の電力貯蔵システム(ESS)産業と今後の展望

2024年9月13日 | 発行元 Statista Japan
sarawuth702 via Getty Images
  • 韓国政府は、2023年に発表した「第10次電力需給基本計画」において、2036年までに世界のESS市場の3割以上を獲得することを目標に掲げています。
  • 韓国バッテリー大手のLGエナジーソリューション(LGES)は2024年7月、欧州向けに生産する低価格のEV(電気自動車)用バッテリーの生産について、中国のサプライヤーと交渉に入ったことが報じられました。

電力貯蔵システム(ESS:Energy Storage System)とは、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーに共通する発電量の変動を吸収し、電力の供給バランスを保つためのシステムです。今から10年足らず前まで、韓国のESS産業は世界市場の50パーセント以上を占めていました。しかし、相次いで発生したESS施設での火災事故やインフラ整備の遅れにより投資が減速。このことはエネルギー業界にとって大きな痛手となりましたが、安全性の高い技術の開発と韓国政府による支援が功を奏し、国内市場に活気が戻ってきています。韓国政府は、2023年に発表した「第10次電力需給基本計画」において、2036年までに世界ESS市場の3割以上を獲得することを目標に掲げています。しかし、達成には多角的なアプローチが不可欠とみられ、大規模事業者向けの国内インフラの整備、安全に関するデューディリジェンス(注意義務の履行)の改善、最新技術の迅速な導入などが、同産業の活性化を大きく左右するとみられています。

韓国のESS大手企業

韓国のサムスンSDI(Samsung SDI)とLGエナジーソリューション(LGES)は、2社合計で世界市場シェアの約9パーセントを占めます。これは、韓国がESS世界市場に占める割合とほぼ同じです。前述の2社が主に製造しているのは、電気自動車(EV)や住宅・商業ビルに最もよく使われているリチウムイオン電池(LiB)です。LiBは、高エネルギー密度と長寿命により、業界の標準として認められています。一方、近年では、安全性が高く安価に製造できるという理由から、リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池の普及が中国や米国などを中心に加速しています。この波に乗るべく、サムスンSDI、LGES、SKオン(SK On)の韓国大手3社も、LFP電池の生産計画の発表または製造開始に踏み切っています。2024年7月には、LGESが欧州向けに生産する低価格のEV(電気自動車)用LFP電池の生産について、中国のサプライヤー3社と交渉に入ったことが報じられました。とはいえ、韓国におけるESSインフラの整備状況は、再生可能エネルギーの大規模展開にはまだ不十分です。

再生可能エネルギーと送電網

適切な気候条件さえ整えば、韓国では再生可能エネルギーを大量に生産できます。しかし電気は、需要(消費量)と供給(発電量)のバランスが一致しないと、最悪の場合、大規模停電(ブラックアウト)に至る可能性があります。特に済州島やホナム(湖南)などの地域では、電力が過剰生産されて送電網に負荷がかかり、発電を停止する出力制御措置が頻発しています。大規模なESS施設は、発電量の変動を吸収し、供給バランスを保つために設計されており、余剰電力を貯め、消費量が高まる時間帯に送電することができます。

自然条件に左右されずに安定して電力を供給できるこうしたシステムは、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出が実質ゼロ)な未来の実現において重要な役割を果たします。韓国政府の試算では、変動性という再生可能エネルギーの欠点を補うために、2036年までに約46兆ウォンをESSの設置に費やす必要があることがわかっています。

国内市場の拡大に向けた第一歩として、韓国政府は大規模なESS建設プロジェクトを発表しており、2025年までに済州島に3つの電力貯蔵施設が建設される予定です。韓国は、再生可能エネルギーの導入を加速化するため、より安全かつ効率的なESS技術への開発投資を継続していくものと考えられます。


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