製造・輸送

東アジア主導の造船業とグリーン化の波に乗る海運業

2023年9月12日 | 発行元 Statista Japan
造船・海運業のイメージ画像。
Suriyapong Thongsawang via Getty Images
  • スウェーデンの海運大手ワレニウス・ウィルヘルムセン(Wallenius Wilhemsen)は2023年8月、 液体燃料とガス燃料を切り替えて運転できる二元燃料エンジン搭載の自動車専用船(CSS)12隻の建造を中国の金稜船舶(CSC Jinling Shipyard)に発注したと発表しました。 
  • 2023年7月、中国発となる国産大型クルーズ船「愛達・魔都(Adora Magic City)」号が上海で進水しました。同船は部品の総数が2万5千点におよび、建造費やメンテナンス費用を合わせると、総額約1兆人民元規模になるとみられています。 
  • 国際クリーン運輸評議会(International Council on Clean Transportation)が2023年6月に更新したスクラバー排水に関する国際調査によると、45か国において93件のスクラバー排水規制が実施されており、そのうち86パーセントが排水を禁止する措置であったことがわかっています。 

グローバリゼーションによって貿易が拡大したことで戦略産業へと変化を遂げた造船業。クルーズ船の建造に関しては欧州が現在も重要な地位を維持していますが、造船業全体では東アジアの日本と中国、韓国という世界最大の造船国が市場を独占しています。中国だけでも、2021年の世界全体の新造船受注の49パーセントを占めており、世界有数の造船大国となっています。一方で、船舶解体ビジネスはバングラデシュ、インド、パキスタンなどの南アジア諸国が中心です。世界全体の船舶解体事業の76パーセントを3か国が占めています。 

世界の主要な造船企業には、韓国のHD現代重工業(HD Hyundai Heavy Industries)、ハンファ・オーシャン(Hanhwa Ocean、旧:大宇造船海洋)、サムスン重工業(Samsung Heavy Industries)、中国の中国船舶集団有限公司(China State Shipbuilding Corporation Limited)、日本の三菱重工業が挙げられます。北米と欧州では主にクルーズ船やヨット、軍艦が建造されており、代表的な造船所にはフィリー造船所(Philly Shipyard)やゼネラル・ダイナミクスNASSCO(General Dynamics NASSCO)があります。 

スウェーデンの海運大手ワレニウス・ウィルヘルムセン(Wallenius Wilhemsen)は2023年8月、 液体燃料とガス燃料を切り替えて運転できる二元燃料(デュアルフュール)エンジン搭載の自動車専用船12隻の建造を中国の 金稜船舶(CSC Jinling Shipyard)に発注したと発表しました。同社が注文した自動車専用船は、環境負荷の低いメタノールを使用して航行できることから、温室効果ガスの排出削減が期待できるとみられています。 

新型コロナウイルス感染症による影響

日本と中国、韓国が20世紀後半に世界全体の貨物船建造の大半を担うようになって以降、競争に勝てないと判断した欧州各国の造船所は、客船の建造に特化するようになります。この戦略は、コロナショック前の2019年まで順調に進み、アジアの造船所が貨物船の需要不足と余剰キャパシティに頭を抱えるなかで、欧州の造船業者は好況に沸きました。しかし、パンデミックの発生により状況は一変します。特にクルーズ産業で客船の運行がストップすると、欧州の造船所への新客船建造の注文が急激に落ち込みました。一方東アジアの造船業者においては、2021年初頭に貨物船の建造需要が急増したため、生産が追いつかない事態となりました。 

そんななか、中国はこれまで欧州の牙城であった客船建造にも進出をはじめています。2023年7月、中国発となる国産大型クルーズ船「愛達・魔都(Adora Magic City)」号が上海で進水しました。同船は、部品の総数が2万5千点におよび、建造費やメンテナンス費用を合わせると総額約1兆元規模になるとみられています。 

海運業界と環境問題

海運業がもたらす深刻な環境問題は、以前から人びとの関心を集めてきました。船舶に搭載されたエンジンからは、粒子状物質(PM)のほかにも、硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが排出されます。2021年、世界の全運輸部門におけるCO2排出量の約11パーセントを占めたのは、海運業でした。かつては当たり前のように行われていた未処理のバラスト水排出も、この業界が抱える環境問題のひとつです。また、寿命を終えた船舶の多くは発展途上国の業者により解撤されることから、海洋汚染など環境への影響に加えて、児童労働などの人権侵害が懸念されます。 

国際的な環境規制への動き

こうした問題への対応策として、海運部門における環境規制はますます厳しくなっています。2017年9月には「バラスト水管理条約」が発効し、2020年に施行された国際海事機関(IMO)の規制によって、船舶用燃料油の硫黄分濃度に上限が設けられました。海運業界は、人間の呼吸器に悪影響を及ぼし、酸性雨や粒子状物質(PM)の発生にもつながる硫黄酸化物(SOx)を最も多く排出する産業のひとつです。IMOは、 SOxの排出を抑制するために船舶用燃料に含まれるSOx濃度を0.5%以下とする規制を実施しています。また、現在も重油(重質燃料油)を使用している船舶は、排出削減基準を遵守するため、「スクラバー」と呼ばれる船舶燃料の排ガス洗浄システムを設置する必要があります。 

しかし、スクラバーを搭載する船舶の数が増えたことで、新たな問題が発生しています。スクラバーは、船舶の排ガスに海水を噴霧することで汚染物質を除去する装置です。排ガスの除去後、海中に排出される「スクラバー排水」と呼ばれる海水と汚染物質の混合物は、海の生態系に悪影響を及ぼす可能性があると考えられています。さらに、スクラバー排水の濃度は港湾で特に高いことから、スクラバーを洗浄した海水の排出を港湾で禁止する国も存在します。 

国際クリーン運輸評議会(International Council on Clean Transportation)が2023年6月に更新したスクラバー排水に関する国際調査によると、世界45か国において93件のスクラバー排水規制が実施されており、そのうち86パーセントが排水を禁止する措置であったことがわかっています。なお、日本の国土交通省はスクラバー排水基準について、「国際海事機関(IMO)で規定された国際基準に上乗せした規制を導入することはない(海中に排水を排出するスクラバーは禁止しない)」との方針を示しています。 


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