1969年7月のアポロ11号による人類初の月面着陸は、多くの人にとって米国とソ連の宇宙開発競争の終わりを告げる出来事でした。しかし、実はこれが宇宙探査に向けた長年にわたる国際協力と宇宙研究の始まりだったのです。宇宙開発産業は1990年代から2000年代にかけて低迷期に突入しましたが、足元では活気を取り戻しています。2022年には、軌道上へのロケットの打ち上げ回数が174回と史上最高を記録しており、この数は今後数年間上昇を続けるとみられています。
宇宙探査プロジェクトがスタートしてからというもの、NASA(アメリカ航空宇宙局)やESA(欧州宇宙機関)、ROSCOSMOS(ロシア連邦宇宙局、現在の国営企業ロスコスモス)などの政府機関が宇宙開発を主導してきました。しかし、近年では最新技術の開発が進み、ミッションにかかる費用を抑えられるようになっています。そのため、新たな商業宇宙活動の機会が生まれ、宇宙開発への参画を希望する民間企業が登場するようになりました。
政府系機関と民間企業が連携して開発を進めるプロジェクトもすでに存在します。NASAは2023年7月、米・ロケット推進システム製造会社エアジェット・ロケットダイン(Aerojet Rocketdyne)と共同で「最新電気推進システム(Advanced Electric Propulsion System、AEPS)」と呼ばれるスラスターの品質テストを開始したと公表しました。AEPSは太陽光を推進力として活用するため、従来のスラスターと比較して積載燃料の量を抑えられることから、打ち上げ費用の削減や積み荷の積載量増加が期待できるとされます。NASAはこのAEPSを「ゲートウェイ(Gateway)」と呼ばれる月軌道プラットフォーム、いわば「月の宇宙ステーション」に搭載する予定です。
宇宙への冒険
宇宙開発に必要とされる部品やサービスを提供するサプライヤーとして、多くの民間企業が長年にわたり政府系機関と協力してきたことから、民間セクターは宇宙産業と深い関わりがあります。しかし、最近では民間の宇宙開発ベンチャー企業がより重要な役割を果たすようになってきています。たとえば2021年は、スペースX(Space Exploration Technologies, Space X)、ブルー・オリジン(Blue Origin)、バージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)の民間企業3社が、国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士を送り届け、民間人の乗客を乗せた宇宙飛行を成功させ、低軌道へ貨物を輸送するなど、かつては政府系機関のみが担ってきた宇宙空間での輸送・運送の達成に向けた画期的なプロジェクトを成功させた最初の年でした。
新たなビジネスチャンスが生まれたことで、宇宙産業にはベンチャーキャピタル(VC)からの投資の波が押し寄せています。2015年以降、宇宙関連企業に集まったVCからの投資額は毎年100億米ドルの大台を上回っており、2018年には過去最高となる約242億米ドルに達しました。なお、過去10年間で最も多くの資金を調達したのは中国と米国の企業です。2013年から2022年にかけて、宇宙関連企業への株式投資(エクイティ投資)の約4分の3が米国系または中国系企業に集まっています。
主導権を握るスペースX
宇宙スタートアップ業界で最高の資金調達額を誇る企業は、紛れもなくイーロン・マスク(Elon Musk)氏率いる米・宇宙開発企業スペースXです。カリフォルニアに本社を置くスペースXは、2023年2月時点で合計96億米ドルの資金を調達しています。同社は、火星の植民地化に向けた宇宙輸送コストの削減を目的として2002年に設立されました。2008年には、史上初となる積み荷を乗せた商用ロケット「ファルコン 1(Falcon 1)」の打ち上げに成功しています。さらにスペースXは、2017年に業界初となる再利用型ロケットを開発し、「ファルコン 9(Falcon 9)」と呼ばれる再利用可能ブースター搭載のロケットを使用して5つのミッションを達成しています。2021年、スペースXは、31回の打ち上げに成功し、そのうち29回は再利用されたファルコン 9によるものでした。
2023年8月、スペースXはファルコン 9ロケットによる第2世代スターリンク(Starlink)衛星「V2 Mini」の軌道投入を成功させたと発表しました。スターリンク衛星とは、スペースXが運用する次世代型低軌道衛星サービスに使用される通信衛星で、高速で安定したインターネット接続を世界中のあらゆる場所で提供することを目指しています。今回のミッションで打ち上げられたスターリンク衛星の数は15基で、最終的には4万2千基の衛星投入を計画しているとみられています。
業界ナンバー2の宇宙スタートアップ企業は、10億米ドル以上の資金調達に成功しているレラティビティ・スペース(Relativity Space)です。2023年2月時点では、合計8回の資金調達ラウンドで約13億米ドルを獲得しています。2021年6月に実施された直近の投資ラウンドで集まった額は、6億5千万米ドルに上ります。2015年に創設され、カリフォルニア州ロングビーチに本社を構えるレラティビティ・スペースは、商業軌道打ち上げサービス用ロケットとロケットエンジンの製造に特化した企業です。同社は、世界初となる自律型ロケット工場を建設し、3Dプリントや人工知能(AI)、自律型ロボット工学を用いた衛星サービスをローンチすることを目標に掲げています。
2023年3月、レラティビティ・スペースは約8割の部品を3Dプリンターで製造したロケット「テラン1(Terran 1)」を打ち上げました。テラン1は、小型衛星を低軌道に打ち上げることを目的に製造されたロケットです。今回の打ち上げでは、1段目は順調に飛び立ったものの、2段目を分離した後でエンジンが正常に着火しなかったため、ミッションは幕を閉じました。レラティビティ・スペースは、最終的に全部品の95パーセントを3Dプリンターで製造し、部品の製造開始から2か月でロケット1機を作成することを目指しているとされます。
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