第二次世界大戦に敗戦し、米国が主導する連合国軍の占領下に置かれた日本においては、国際紛争を解決する手段としての戦争を永久に放棄することを誓い、ミサイルや核弾頭といった攻撃的兵器の保持を禁じる日本国憲法第9条が制定されました。しかしながら、日本が自衛隊という専守防衛を目的とした軍事力を保持しているのは、周知の事実です。自衛隊の装備品の大半は、三菱重工業などの大手企業が国内で製造しており、それ以外の軍事技術や装備品は、対外有償軍事援助(FMS)を通じて米国から提供されます。
日本の防衛産業は規模が大きいものの、これまで軍事技術や軍事装備品の海外への輸出が禁じられてきたことから、一部の例外を除いては買い手が自衛隊のみに限定されています。そのため、日本政府の防衛予算が、日本の防衛産業の市場規模を左右する大きな要因となってきた背景があります。
2023年3月に成立した日本の2023年度防衛費予算は、過去最大の約6兆8,200億円となっています。防衛力の抜本的な強化を目的とする政府の方針を受けて、防衛費が前年度に比べて大きく上積みされた形です。
新・中期防衛力整備計画
買い手が限定されているなかで、最先端の技術や高性能の装備品を製造するのに必要な資金を調達することは、日本の防衛産業が抱える恒常的な課題です。業界最大手の企業は、防衛省から数十億円規模の契約を受注していますが、利益率が低い、あるいはゼロという場合もあるとみられています。さらに、対外有償軍事援助(FMS)を通じた米国製装備品の調達が、国内企業の状況を悪化させているのも事実です。
直近では2023年5月、日本と米国が共同で開発した新型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」が、米政府からFMSを通じて防衛省に納入されたことがわかりました。北朝鮮が発射する弾道ミサイルの脅威に立ち向かうための対抗手段として期待が寄せられる一方で、米本土に向かうミサイル迎撃に使用されるとの見方も存在します。
日本政府は新たに発表した「中期防衛力整備計画」において、2027年度までの5年間で防衛費を大幅に増額することを約束しており、防衛産業にとって好天の兆しが見えています。新しい政策は、防衛関連投資に関する方針転換を意味し、政府は防衛費を国内総生産(GDP)の1パーセント以下に抑えるこれまでの施策を改めました。新・中期防衛力整備計画では、あらゆる面で防衛力を抜本的に強化することを定めています。防衛予算の増加により、防衛産業を活性化させ、企業の撤退を防ぐことができると見込まれています。
防衛費の増額を背景に、政府が2024年以降検討するとしてきた増税の時期について、自民党の宮沢税制調査会長が年末に党内で議論を行うと発言したことが報じられています。 さらに宮沢氏は、スケジュールを考慮すると2024年の増税は困難であり、2025年以降になるという考えを明らかにしました。
防衛産業のこれから
持続的な資金調達という課題は、防衛産業の将来を決定づける要因のひとつです。防衛予算が拡大されたことにより、国内企業が防衛産業への関与を続け、これまで低水準であった防衛関連の利益率が改善されるきっかけになることが期待されています。現時点では、新・中期防衛力整備計画からの資金の大半は、通常兵器(陸上・水上・航空兵器)の購入に充てられています。
また、技術の進歩に伴い、国家安全保障上懸念すべき新領域としては、宇宙・サイバー、人工知能(AI)、量子コンピューター、電磁波機器、3Dプリンターなどが挙げられます。こうした新しい分野の登場により、民生用技術と軍事用技術の区分がますます困難になっています。最先端技術がこれまで以上に重要な役割を果たすようになり、民間企業・団体とのより緊密な連携が必要となるにつれて、防衛産業の状況は複雑かつ急速に変化を遂げています。
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