BRICSとは、Brazil(ブラジル)、Russia(ロシア)、India(インド)、China(中国)、South Africa(南アフリカ)の頭文字を並べたもので、著しい経済の発展が見込まれる新興5カ国を示します。2001年にBRIC(新興4か国、南アフリカは含まれない)という用語を初めて生み出したのは、米国の金融機関Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)のグローバル経済調査責任者Jim O’Neill(ジム・オニール)氏です。
本来、BRICという言葉は非公式な用語として考案されたものですが、これらの国々は、2009年から公式な首脳会談を毎年開催してきました(南アフリカは2011年から正式に参加)。一方で、ロシアのドミトリー・ペスコフ(Dmitri Peskov)大統領報道官は2023年4月、同年8月に南アフリカで開催予定の新興5か国首脳会議に触れ、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が出席するかは「時期が近づいたら適切に決定する」と述べています。南アフリカは、国際司法裁判所(ICC)の加盟国であり、ウクライナ侵攻に関する戦争犯罪の疑いで逮捕状が発行されているプーチン大統領が入国した場合、拘束に協力する義務が生じることになるとみられ、外交問題に発展するのを避けたい南アフリカとロシアがどう動くかに世界の関心が集まっています。
なお、ロシアは、1997年からG8(Group of Eight、主要国首脳会議)のメンバーでしたが、2014年のクリミア半島侵攻を理由に除外されました。世界銀行(World Bank)によると、世界最大の経済大国12か国中11か国をG7(Group of Seven、先進7か国首脳会議)とBRIC諸国(南アフリカを除く)が占めています。なお、12カ国の残る1カ国は韓国となっています。
BRICS諸国の共通点と相違点
BRICS諸国で人口が最も多いのは中国とインドで、それぞれ約14億人の人口を抱えています。一方で、BRICSのほかの3か国を合わせても、人口は4億人強に過ぎません。さらに、ロシア、中国、ブラジル、インドは、世界で最も面積の広い7つの国の一つですが、南アフリカの面積は世界ランキングで25位にとどまります。
また、BRICSの前身であるBRIC(新興4か国)は、国内総生産(GDP)で上位12位以内にランクインする経済大国であるのに対し、南アフリカの経済規模は世界で上位40位に入っておらず、アフリカ諸国中でも第3位にとどまっています。こうした事情にもかかわらず、南アフリカの経済はアフリカで最も多様性に富み、先進的であるとされ、政治的にも最も安定した国の一つであることから、BRICSの正式なメンバーとみなされています。
新興5か国は、国土の広さや人間開発の水準、政治体制が異なることから、経済構造にも大きな違いがあります。例えば、5か国とも経済が多様化していますが、中国の経済は主に製造業を中心としている一方で、ロシアではエネルギー産業が、そしてブラジルではコモディティ(大豆などの農産物)が重要な役割を担っています。
BRICS諸国の経済発展
BRICが誕生して以降、中国は国内総生産(GDP)で米国に次ぐ世界第2位となるなど、新興5か国で最大の経済大国としての地位を確立しています。中国経済の急成長は、1970年代末にそれまでの孤立主義的な政策を放棄し、改革開放政策に転換したことに端を発します。それに続く急速な工業化や世界最大とされる労働人口の都市部への移住によって、中国は「世界の工場」として知られるようになったのです。中国ではそれ以来、富と外国資本の流入により、人々の生活水準が大きく向上し、国内市場が生まれました。なお、中国の製造業は、より高度な技術を必要とする商品の生産に移行しつつあることから、大半の予測では、2030年までに世界最大の経済大国になるとみられています。
ブラジル、インド、南アフリカは、経済発展のスピードとタイミングともに中国に比べて遅く、概ね人口の増加とともに推移しています。2010年代には、インドがGDP成長率で中国を追い抜いており、今世紀半ばには米国をも上回ると予測されています。インドは、中国と並ぶ世界最大の国内市場を抱える国であり、国際社会における立場は中国と異なるものの、同国の経済は多くの分野で中国経済と同様の発展を遂げるとみられています。2010年代初頭には、ブラジルの経済も大きく成長しましたが、経済および政治危機が原因で景気後退に陥って以来、回復に時間がかかっています。
ロシアの経済発展は、ほかのBRICS諸国とは大きく異なっています。20世紀末、ロシアの前身であるソビエト連邦は、世界第2位の経済大国でしたが、ソ連崩壊によって1990年代を通して経済が後退を続けました。その後、ロシア経済は一時「発展途上国」と呼ばれるまでに疲弊しましたが、2000年代になってようやく回復を遂げています。
BRICS諸国の複雑な関係
BRICS諸国は、G7と同じく単なる貿易会議としての枠組みを超えた協力関係にあります。2013年には、BRICS各国および発展途上国における持続可能で収益性のあるインフラ整備やエネルギー開発投資を目的とする新開発銀行(New Development Bank)が設立されました。同銀行の総裁の任期は5年となっており、2023年3月にはブラジルの元大統領ジルマ・ルセウ( Dilma Vana Rousseff )氏が全会一致で新総裁に選出されています。さらに、BRICS各国は他方面でも経済的な協力関係を強めています。同年4月、ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ ( Luiz Inácio Lula da Silva )大統領は、新興5カ国間の貿易決済に使用される共通通貨の創設を支持する考えを示し注目を集めました。BRICS共通通貨の導入によって、米ドルへの依存度を減らし、貿易決済におけるBRICSの影響力を強化することが目的とみられています。なお、共同プロジェクト以外にも、中国の一帯一路構想やインド主導の「災害に強靭なインフラのためのコアリション(Coalition for Disaster Resilient Infrastructure)」など、BRICS諸国は国益を拡大するために独自の戦略も展開しています。
とはいえ、新興5か国の関係は常に円満とはいえず、特にアジアでは利害が衝突することも少なくありません。例えば、ロシアの国際政治評論家には、中央アジアにおける中国の野心は、同地域におけるロシアの影響力を排除しようとするものだと考える人もいます。また、インドと中国の国境問題は、時には武力衝突にも発展する長期的な外交懸案となっています。いずれにせよ、過去20年間で BRICS諸国の国際的な地位は向上しており、G7諸国とは、主要20か国・地域首脳会議(G20)や国連(UN)などの国際組織の一員として、協力関係にあります。また、G7各国と2国間関係を結ぶ国もBRICSには存在します。一方で、欧米を中心とする西側諸国に挑戦する対立軸としてBRICSが台頭してきているのも事実です。
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