オンラインフードデリバリー業界は、新型コロナウイルス感染症の流行がきっかけで、かつてない需要の伸びを経験しました。世界中の人々がロックダウン(都市封鎖)や隔離措置で自宅待機を強いられたことから、生鮮食品宅配サービスや食事宅配サービスへの需要が劇的に高まったのです。コロナ禍前と比べると、生鮮食品宅配セグメントと食事宅配セグメントの両方で収益が倍以上に増加しています。
フードデリバリー業界の世界市場規模は、2022年に7,600億米ドルに達したと推定され、そのうち3千億米ドルは食事宅配セグメントによるものでした。同時にオンラインフードデリバリープラットフォームのユーザー数も、ここ数年間衰えることなく成長を続けています。2022年には、全世界で30億人を超える消費者が何らかの形でオンラインフードデリバリーサービスを利用したと考えられています。
業界の成長とともに、フードデリバリー配達員の処遇にも注目が集まっています。2023年6月、米国ニューヨーク市のエリック・アダムス(Eric Adams)市長は、 ニューヨーク市消費者・労働者保護局長と共同で、フードデリバリーサービスの配達員に対して時給19.96米ドルの最低賃金を導入することを発表しました。ニューヨーク市で働くフードデリバリー配達員の平均時給は、現在7.09米ドルと低い水準となっており、今回の最低賃金導入の恩恵を受ける人々は、6万人に上るとされています。
投資先を巡る世界的競争
コロナ禍で需要が急速に高まったことで、オンラインフードデリバリー業界各社には、記録的な額の資金が流入しました。2021年には、生鮮食品宅配セグメントと食事宅配セグメントへの投資額が史上最高となる191億米ドルに達しています。多額の資金を調達した大手フードデリバリー企業は、中小企業を買収して事業を拡大しました。2023年初頭時点で90億米ドルの資金を調達したデリバリーヒーロー(Delivery Hero)のブランド体系には、スペインのグロヴォ(Glovo)、トルコのイェメクセペティ(Yemeksepetiイェメクセペティ)、中東・北アフリカ地域で人気のタラバット(Talabat)など、各国・各地域の有力企業が含まれています。
イスタンブールに本社を置くゲティル(Getir)もまた、地域の有力企業が力をつけて世界市場へと事業を拡大していった好例です。2015年に設立されたゲティルは、一部のEU加盟国および米国でオンデマンド宅配サービスを展開しており、2022年12月には、即時宅配市場における主要な競合企業であったゴリラズ(Gorillas)の買収を発表しました。
なお、ゲティルは2023年7月、ポルトガル、スペイン、イタリアの南欧3カ国からの撤退を発表しました。利益率の低さが原因とみられ、今後の経営方針としては、利益率が高く、持続的な成長が見込まれる市場での事業拡大に専念するとしています。さらに同社は、事業を継続する国々での収益は、会社全体の収益の96パーセントを占めていることを明かしました。
フードデリバリー業界も、2022年に始まった世界的な景気後退の影響を免れることはできませんでした。食料品価格の高騰やサプライチェーンの混乱、目前に迫る景気後退など、マクロ経済では不透明かつ厳しい状況が続いていることから、オンラインフードデリバリー業界への投資は大幅に減速しました。欧州では、ベンチャーキャピタルによるフードデリバリー企業への資金投資が落ち込み、2021年には67億米ドルに達した投資額が、2022年には25億米ドル以下に減少しています。オンラインフードデリバリー企業は、資金難に加え、コロナ最盛期に発生した多額の営業コストにあえいでおり、多くの企業では大量解雇が行われました。2023年1月時点では、米国市場を牽引するドアダッシュ(DoorDash)で1,200人以上が解雇されており、高速宅配サービスを手がけるゴーパフ(Gopuff)でも約2,300人の従業員が職を失っています。
即時宅配サービスの登場
フードデリバリーサービスは、非常に競争の激しい業界であり、配達時間に関する顧客の要望に応えることが最も重要な要素とされます。2022年に実施された調査によると、世界の消費者の半数以上が、オンラインで注文した食事が30分以内に配達されることが望ましいと回答しています。また、配達時間の遅延は、フードデリバリーサービスにおいて顧客満足度を損ねる最大の要因となっており、世界の消費者の約3割が不満の理由に挙げています。この事実を踏まえて、生鮮食品や食料品を1時間以内に配達することを約束する「クイックコマース」と呼ばれる即時宅配サービスが誕生しました。クイックコマースの主要な企業には、ゲティルやゴリラズ、フリンク(Flink)が挙げられます。
なお、ドアダッシュは2023年8月、注文数が当初の予想に比べて急増したことから、通年の中核利益見通しを引き上げたと発表しました。さらに同社は、営業利益や経常利益と並んで企業の価値を評価するための指標として用いられるEBITDAが、7億5千万米ドルから10億5千万米ドルとなると予想し、従来の予測から1.5億米ドル引き上げています。
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