先進国で衣服の大量生産方式が普及するまで、消費者は服の生地を自ら調達し、手作りするのが一般的でした。衣類を長く愛用する「スローファッション」の時代は1960年代まで続きましたが、その約30年後、ザラ(Zara)の「高速で衣料品を製造・供給する最新の生産モデル」を表す表現として、米ニューヨーク・タイムズ紙が「ファストファッション」という造語を初めて提唱しました。以来、最新の流行を採り入れた低価格な衣服が手に入るようになり、世界中の多くの人びとの消費行動に大きな変化をもたらしました。
アパレルECの主要ファストファッション・ブランド
大量の衣料品を高速で生産し、安価で消費者に提供する生産スタイルは、ファストファッション・ブランドの大きな特徴といえます。2023年時点では、ファストファッション大手がアパレルEC(電子商取引、eコマース)市場をけん引しており、前述のザラのほかにも、シーイン(Shein)、エイチ アンド エム(H&M)、ファッション・ノヴァ(Fashion Nova)、フォーエバー21(Forever 21)が特に有名です。これら5社は、米国で最大のシェアを占めるファストファッション企業でもあります。
米国や日本で人気上昇中の中国発のファストファッション・ブランド「シーイン」は、世界最大のアパレルEC企業でもあり、ファッション産業のみならず、他産業のブランドと比較しても最大級の規模を誇ります。シーインは、2023年に最もダウンロードされたファッションアプリで、世界のアパレルサイトのアクセス数ランキングでも1位に輝いています。
実店舗とオンラインストアで衣料品を販売するH&Mやザラなどの有名ブランドのほかに、オンライン専門で事業を展開するファストファッション・ブランドも数多く存在します。ブーフー(Boohoo)やエイソス(ASOS)、プリティー リトル シング(Pretty Little Thing)、ファッション・ノヴァは、ソーシャルメディア(SNSなど)での発信力が強く、特に購入品レビュー動画(ハウルビデオ)の題材として強い支持を得ています。
サステナブルファッションへの障壁
ファストファッション産業は、サプライチェーンに関する情報をほとんど開示しない一方で、過剰消費を促進し、環境への配慮を装う「グリーンウォッシュ」を行っているとされます。そのため、持続可能な開発目標(SDGs)への障壁であり、労働者搾取を助長していると批判の声が上がっています。また、シーインやロムウェ(Romwe)など、オンライン専門のファストファッション・ブランドの多くは、無名クリエイターのデザインを自社商品に盗用したとして訴えられています。2024年1月には、ファッション大手ユニクロが、シーインで自社の模倣品が販売されているとして、運営会社3社を東京地方裁判所に提訴したと発表しました。模倣が疑われている商品は、ユニクロが販売する「ラウンドミニショルダーバッグ」で、同社はシーインに対し、約1億6千万円の損害賠償を求めています。
課題が山積するファストファッションですが、実入りの良いビジネスであることに変わりはなく、大手EC企業の多くが収益性の高い事業を世界中で展開しています。世界のEC市場には、ティームー(Temu)など、安価な商品を購入できる最新のマーケットプレイスが続々と参入しており、ティックトック(TikTok)などのソーシャルメディア(SNSなど)が消費を加速させています。ファストファッション企業は、ロイヤリティの高いオンライン買い物客を惹きつけており、サステナブルファッションの脅威となっています。
とはいえ、スローファッションや持続可能なファッションが完全にファストファッションに取って代わられたというわけではありません。古着などを取り扱うセカンドハンドECは、さまざまな理由から中古服の販売・購入を希望する消費者の人気を集めており、サステナブルな選択肢の一つとなっています。
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