2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、貿易の混乱や難民問題を引き起こし、投資家の両国への信頼を失墜させました。これまでに40ヶ国以上が、ロシアの政財界及び特定商品の取引や政府関係の個人・団体を対象に制裁を実施しています。
戦争による経済への影響
国際通貨基金(IMF)によると、2022年の世界経済成長率は、ロシア・ウクライナ戦争前の水準よりも1.5%低い3.4%と予測されています。また2023年の予想値も0.7%引き下げられました。なお2021年時点でロシアとウクライナの国内総生産(GDP、購買力平価基準)が世界のGDPに占める割合は3.5%(ロシア:3.07%、ウクライナ:0.4%)となっています。
2022年の世界の消費者物価は前年と比べて9%高くなると予想されており、特に欧州経済においてはこの戦争による直接的な影響からロシアやウクライナ産商品の価格上昇が懸念されています。ロシア経済は世界各国からの制裁によって苦境に立たされていますが、サウジアラビアやアルゼンチンなどはロシアに代わる輸出国として自国商品を輸出することで、ロシアに対する制裁がプラス要因となっています。
また、世界経済からのロシアとウクライナの断絶は、既に各国で起きているインフレ危機に拍車をかけています。アルゼンチンとトルコでは2022年のインフレ率がそれぞれ90%以上、70%以上と、世界各国の中で最も高いインフレ率になると予測されています。さらに、ロシアからの原油と天然ガスの輸入を制限したことで、世界のエネルギー価格は高騰しました。
戦争による被害
世界銀行によると、2022年のウクライナの国内総生産(GDP)はインフラへの被害とウクライナからの大規模な人の流出により、35%減少すると推定されています。
キーウ経済大学は2022年12月時点でのウクライナの民間インフラへの損害額を1,380億米ドルと推定しており、特に住宅の推定被害額は540億米ドルでインフラへの損害の内訳として最も大きい割合となっています。
戦争の影響は旅行業界にも及んでおり、ロシア空域の閉鎖、ロシアの航空会社に対する規制、世界的な旅行に対する不安などにより世界の観光産業は140億米ドルの損失を被ると予想されています。コロナウイルス関連の規制により、モンゴル、モルディブ、セイシェルなどへ渡航するロシア人観光客は増えましたが、その後の制裁により欧州への渡航はさらに難しくなっています。
ロシアに対する制裁
2022年2月以降、40以上の国・地域がロシアに制裁措置を講じています。金融制裁、貿易制限、エネルギー規制、輸送制裁・入国制限、対象を定めた制裁、文化・スポーツ制裁など、個人・産業を問わず、各国の制裁措置は多岐にわたっています。欧州連合(EU)、米国、日本がロシアに対し多くの制裁措置を取る一方で、シンガーポール、台湾、バハマなどはあまり多くの制裁措置は講じていません。
このようなロシア経済を標的とした国際的な制裁措置や貿易機能の制限の結果、2022年のロシアのGDPは4.5%減少すると試算されています。ロシアの財務相は2022年の財政収支が速報値で約3.3兆ルーブル(約6.2兆円)の赤字に転じたと発表しました。社会保障費の支出増を理由として挙げていますが、ウクライナへの軍事侵攻の戦費も要因だと見られています。
ロシアに対する各国からの制裁措置に加え、世界の大手小売企業も戦争により次々にロシアから撤退しています。LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)が一時的にロシア国内の全業務を停止した一方、マクドナルド、スターバックスといった米国の世界的大企業はロシアでの事業を売却することでロシア市場から撤退しました。
こうした企業や各国の制裁措置に対して、ロシア政府は制裁を行った48カ国を「非友好国」リストに追加し、貿易制限、航空規制、外国企業の外部管理などの対抗措置を適用しました。
岸田首相は欧米諸国との一連の会談において、ロシアへの制裁とウクライナへの支援を継続する立場を強調しました。欧米諸国が武器供与を続ける中、海外への武器提供に厳しい制約がある日本は人道上の支援や財政支援などが中心となっています。
戦争による影響の行方
この戦争がもたらしたサプライチェーンの分断や価格の乱高下は、農業、鉄鋼、エネルギーなど、ロシアとウクライナが主要輸出国である産業に大きな影響を及ぼしています。特に中東やアフリカ、アジアの国々はロシアやウクライナ産の小麦に頼っており、国際連合食糧農業機関は2022〜2023年の間に800〜1,300万人が栄養不足に陥ると試算しています。
国際エネルギー機関は2022年末の報告書で、欧州の天然ガス需給について「2023年の冬はさらに厳しい試練が待ち受けている」としました。また、エネルギー・金属鉱物資源機構は、欧州がエネルギーの脱ロシアを継続する場合、液化天然ガスの供給不足は2020年代末まで続くとの試算を発表しました。
その一方、一時期急騰したエネルギー価格は、2023年にあまり需要が見込まれていないことや、貯蔵量が十分あることから落ち着きを見せています。
Statistaは、記載された情報の完全性および正確性に関して一切の責任を負いません。このページに掲載されているのは一般的な情報であり、statista.comのコンテンツを翻訳し、作成したものです。和訳版と原文(英語)に差異が発生した場合には、原文が優先します。更新頻度が異なるため、本ページで紹介したデータよりも新しいデータがstatista.com上に表示される場合があります。データの二次利用権に関しては、FAQの該当項目をご覧ください。
Statistaにご関心をいただき有難うございます。ライブデモのご要望、製品の内容、アカウントの種類や契約に関する詳細など、どうぞお気軽にお問い合わせください。日本語と英語での対応が可能です。