社会・経済

2024米大統領選挙 有権者が重視する課題

2024年7月8日 | 発行元 Statista Japan
2024年の米国大統領選挙のイメージ画像。
PeterSnow via Getty Images
  • 2024年6月には民主党と共和党の予備選挙が行われ、民主党のジョー・バイデン(Joe Biden)大統領と共和党のドナルド・トランプ(Donald Trump)前大統領がそれぞれ候補者指名に必要な代議員数を獲得しました。
  • ペンシルベニア州などいくつかの激戦州では、有罪判決のあともなお、トランプ氏の支持率がバイデン氏を上回ったと報じられています。アリゾナ州で2024年5月から6月に実施された調査では、トランプ氏の支持率がバイデン氏を8ポイントリードしていることがわかりました。

60を超える国と地域で大統領選挙や議会選挙が実施される2024年は、国際政治の方向性を決定づける「選挙イヤー」です。各国で重要な選挙が行われるなか、多くの人の関心は11月の米国大統領選挙に集まっています。6月には二大政党である民主党と共和党の予備選挙が行われ、民主党のジョー・バイデン(Joe Biden)大統領と共和党のドナルド・トランプ(Donald Trump)前大統領が、それぞれ候補者指名に必要な代議員数を獲得しました。2020年大統領選の再来はほぼ確実とみられますが、指名候補は党大会で正式に決まります。共和党大会は7月15日~18日に予定されており、民主党は8月19日から行う党大会より前の8月7日までに指名手続きをオンラインで実施する予定です。

2020年大統領選の再戦

民主党現職のジョー・バイデン大統領は2023年4月、翌年の大統領選挙への立候補を正式に表明しました。諸外国のバイデン大統領への見方は、他国のリーダーと比較して概ね良好です。しかし米国民からの支持は、大統領就任以来一貫して低水準で推移しています。インフレや移民対策などが支持率を下げていることに加え、バイデン大統領に対して好意的でない国民が多く、2023年の調査では、成人の約60パーセントが「バイデン氏は弱いリーダーだ」と答えました。

共和党の最有力候補と目されるトランプ前大統領は、立候補資格を巡る裁判や米下院議会からの2度の弾劾訴追、さらには選挙妨害、業務記録改ざん、機密文書の持ち出し、2020年大統領選の結果を覆す画策といった100件を超える刑事訴訟など、数多の法的問題に直面しています。トランプ氏は2024年5月、2016年の大統領選時に行った不倫口止め料の不正会計処理に関する34件すべての罪状について、ニューヨーク州地裁で有罪と評決されました。トランプ氏は、このほかにも3つの刑事裁判を抱えており、初公判は投票日前となる見込みです。刑事事件で有罪判決を受けた初の大統領経験者となったトランプ前大統領ですが、アメリカ合衆国憲法には犯罪歴のある候補者を阻止する規定がないため、出馬に影響は出ないと考えられています。それに加え、トランプ氏は今も共和党内で厚い支持を受けており、党員の多くが今回の判決を不服に感じると答えています。またトランプ氏は、今回の選挙で最も多くの献金を集めた候補となっています。

スイングステート(激戦州)と呼ばれるアリゾナ州、ジョージア州、ミシガン州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州で2024年4月に実施された世論調査では、7州中6州において、トランプ前大統領が支持率でバイデン大統領をリードしました。ペンシルベニア州などいくつかの激戦州では、有罪評決のあともなお、トランプ氏の支持率がバイデン氏を上回ったと報じられています。アリゾナ州で2024年5月から6月に実施された調査では、トランプ氏の支持率がバイデン氏を8ポイントリードしていることがわかりました。

無党派層の台頭

米国人の大半は、二大政党の最有力候補であるバイデン氏にもトランプ氏にも大統領選に出馬してほしくないと考えていることも明らかになっています。80歳のバイデン氏と77歳のトランプ氏を巡っては、高齢による再任への懸念が強まっており、どちらでもない「第3の候補」への関心が高まりつつあります。実際に、近年行われた支持政党に関する調査では、「無党派」の有権者の割合が過去最高を記録しました。今回の大統領選に無所属で出馬を表明しているのは、元緑の党のコーネル・ウェスト(Cornel West)氏と元民主党候補のロバート・F・ケネディ・ジュニア(Robert F. Kennedy Jr.)氏です。各候補の支持率には世代によって大きな差があります。

また、有権者の投票意欲は低く、約10パーセントは「候補者を決めかねている」と答えていますが、テレビ討論会でのバイデン氏とトランプ氏の直接対決には注目が集まっています。2024年6月27日(日本時間の28日)に行われた今回の選挙で初のテレビ討論会では、経済や移民政策を巡る議論や、両候補者の高齢不安が焦点となりました。

有権者が重視する課題

米国の有権者が重視する政治課題である雇用と雇用創出は、大統領や米国議会を巡る議論でもしばしば取り上げられます。なかには、大統領としての成功は在任中に生み出された雇用の規模と直結していると考える人もいるほどです。また、税制改革、規制緩和、インフラ投資に代表される経済政策も、事業環境や雇用創出、失業率に影響を及ぼすため、有権者にとって重要な課題です。米国経済は堅調に成長していますが、国民の多くは日常生活において経済の回復を実感できていません。消費者物価指数(CPI)と物価は上昇し続けており、多くの人々が苦しい生活を強いられています

税金と政府支出も、有権者にとって重要なテーマです。共和党の支持者は、社会保障年金やメディケア(高齢者および障がい者向け公的医療保険)といった制度への支出削減を望み、民主党の支持者は、財源の穴埋めに富裕層への増税を主張する傾向が強くなっています。両党は財政問題について非難の応酬を繰り広げていますが、連邦債務はトランプ・バイデン両政権下で大幅に増加しました。

米国では、人工妊娠中絶を巡って賛否が真っ二つに割れており、今回の選挙キャンペーンにおいても重要なテーマです。連邦最高裁が2022年に人口妊娠中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」を覆す判決を下した結果、各州は州法で中絶を禁止・制限できるようになりました。中絶の権利を保障する判決が覆されたことで、多くの有権者は危機感を募らせており、今回の選挙を決定づける大きな争点になるとみられます。

また、全米で相次ぐ銃乱射事件を受け、銃規制を巡る議論も盛んになってきました。銃規制に賛成の割合は、民主党支持者が共和党支持者の倍近いという調査結果も出ています。

気候変動、環境保護、医療保険制度、LGBTQの権利、移民対策なども意見が分かれる政治問題となっています。特に米国にとって積年の課題である不法移民対策については、長年議論が行われてきました。共和党支持者の間では、移民対策強化を求める声が強まっている一方で、民主党支持者の間では、移民自由化への支持が高まっています。このように二大政党の分極化が進み、実りある改革に着手できない現状に、多くの国民が不満を抱えています。

フェイクニュースや偽情報の懸念

2020年大統領選挙では、政府や行政機関に対する信頼低下を背景に、相当数の共和党議員がトランプ前大統領の敗北を認めようとしませんでした。その結果、2021年1月6日、選挙結果の認証手続きが行われていた連邦議会議事堂をトランプ氏の支持勢力が襲撃する事件が発生しました。事件を巡っては、トランプ氏の責任について国民の意見が割れています。しかし有権者の多くは、議会襲撃事件に関与したトランプ氏から大統領選への出馬資格を剥奪すべきだと考えていることがわかっています。一方、近年行われた調査では、有権者の3割が2020年大統領選挙で広範な不正投票があったと答えており、選挙への信頼回復は今後の課題です。

さらに、党派的なメディアが現れたことで、フェイクニュースや偽情報の懸念が強まっており、AI(人工知能)の発達で事態はより悪化しています。2023年の調査で「報道機関はニュースを完全、正確、公正に報道すると信用している」と答えた人は、民主党支持者では58パーセントに達したものの、共和党支持者ではわずか11パーセント程度に留まりました。民主党支持者と共和党支持者では信頼する政治ニュース媒体が異なっており、正確な情報提供や信頼の醸成、政治的分断の解消はますます困難になっています。


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